
ノバセルCMO伊藤が語る「マーケティングの民主化」実現に向けた、業界・組織の変革とは?
ノバセル株式会社 CMO, VP of Marketing
伊藤 哲志
Tetsushi Ito
2000年、早稲田大学商学部卒業後、dts Japan株式会社、マイクロソフト株式会社(現:日本マイクロソフト)などでマーケティングを担当。2014年より、株式会社セールスフォース・ドットコムのマーケティング本部にて、Platformビジネスのプロダクトマーケテング シニアマネージャーを担う。2021年より、Slack Japan株式会社にて米国以外で初のプロダクトマーケティングマネージャーとして日本のプロダクトマーケティング部門を立ち上げ、のちにプロダクトマーケティング、カスタマーマーケティング、コンテンツマーケティングなどの部署を統括。2023年9月、ノバセル株式会社にCMOとして参画。
「マーケティングの民主化」に惹かれて入社を決意
――伊藤さんのこれまでのキャリアを教えてください。
私のキャリアのほとんどは、「外資系IT企業でのマーケティング職」です。
2000年に早稲田大学を卒業したのち、ベンチャー企業、オーディオソリューションを手がけるdts Japan株式会社などを経て、マイクロソフト株式会社(現:日本マイクロソフト)に入社しました。マイクロソフトでは、Windows XP、Windows Vista、Windows Mobileなどのプロダクトマーケティングを9年にわたって担当していました。
2014年から2020年には、株式会社セールスフォース・ドットコム(現:株式会社セールスフォースジャパン、以下:セールスフォース)のマーケティング本部で、Platformビジネスのプロダクトマーケティング シニアマネージャーを経験しました。
その後、当時50名ほどの規模だったSlack Japan株式会社へ。プロダクトマーケティングのチームを立ち上げましたが、セールスフォースとの合併により再びセールスフォースへ戻ることとなり、SlackやTableauなどのプロダクトマーケティングをおこなうチームでディレクターを務めていました。
――複数の会社で一貫してマーケティングに従事されてきたのですね。外資系企業でのご経験が多いなかで、どうして次のキャリアにノバセルを選んだのでしょうか?
外資系企業の日本法人は、言ってしまえば「日本支社」です。そのため、プロダクトもマーケティングも、基本的には海外にある本社が決めたことのローカライズ版です。すると、英語だと格好良いタグラインなのに、直訳されているせいでちょっと違和感があったり、ヘルプページがひどい日本語だったり……というケースが出てくるんですね。ユーザーの目線になったときに、きっとそういうサービスって不安ですよね。ユーザーが安心して購入し製品・サービスを使ってもらえるようにするためにも、日本で開発したサービスを日本のマーケットに適した形で、マーケティングをしてみたいと思っていました。
また、米国本社が決めたことだけではなく、自分自身で裁量権を持ち、広い範囲でマーケティングの領域を見ていきたいと思ったことも転職のきっかけでした。
とはいえ外資系の経験が長かったので、前述の気持ちがありながらも、はじめは日本企業に勤めることは全く考えておらず、引き続き外資系企業のマーケティングヘッドなどのポジションを中心に検討をしていました。そんなときにノバセルのCMOはどうかと声を掛けていただいて、話を聞くうちに惹かれていきました。
――ノバセルのどんな点に魅力を感じましたか?
「マーケティングの民主化」というミッションが素晴らしいと感じました。20年もマーケターをしていると、自分の中では当たり前になっていることは数多くあります。ですが、まわりの話を聞いてみると、世の中ではそれらは決して当たり前ではなく、ターゲットをどう考えるか、それをどう伝えていくかといったことにあまり触れる機会がなかった方も多くいるのだと気付かされました。
マーケティングのフレームワークに対する認知がまだまだ低い現状を目の当たりにするたび「これは伸びしろだ」と思っていたので、ノバセルの掲げる「マーケティングの民主化」というミッションに強く共感しました。
――ノバセルにとっては、初めてのCMOポジションでの採用だったのでしょうか。
はい。これまでは、ラクスルCMO・ノバセルCEOの田部が、ノバセルのCMOも兼任していました。マーケティングチームのレポートラインは、田部の直下でした。
これまでノバセルの主力事業は運用型テレビCMで、テレビCMを実施したことのない中小・中堅企業がメインのクライアントでした。しかし、今後エンタープライズ企業に対してもノバセルのサービスを拡充し提供していくことを考えたとき、そこに対してより知見のある人にドライブしてもらいたいということで、アサインされた形です。
私はずっとBtoBのSaaS領域にいたので、「マーケティング戦略、企画立案、実行まで一貫して任せたい」というのが託されたミッションでした。

運用型テレビCMだけに留まらない、多様化するノバセルのサービス
――伊藤さんが管轄する事業部の業務内容を教えてください。
わたしはマーケティング本部を管轄しており、マーケティンググループ、インサイドセールスグループの2つの領域を統括しています。
簡単に申し上げると、マーケティンググループの役割は、さまざまな施策を通じてリード(見込み顧客)を探すことです。インサイドセールスグループは、その中からMQL(Marketing Qualified Lead:確度の高い見込み顧客)を探し、優先順位を考えてコールをし、商談化するまでを担っています。
――その中で、伊藤さんはどのような役割を担っているのでしょうか。
たとえばノバセルでは、テレビCMの効果を分析・可視化するツール「ノバセルアナリティクス」「ノバセルトレンド」のサービスを展開しています。ですが、このツールを導入いただいても、導入先の企業側に、これらのツールを用いてマーケティングの投資対効果に関するPDCAを回せるプロフェッショナルがいなければ、本来の価値を発揮できません。
社内にマーケティングのプロフェッショナルがいない企業に対して、ただツールを提供するだけでなく、ノバセルが提供できるバリューは何なのか、伝えるべきメッセージ、伝えたいアイディアは何か、などを整備して、どういった施策に落とし込むのかを考え、実行に落とし込んでいます。
チームメンバーとともに、メッセージを伝えるためのコンテンツ作成、施策の実施、展示会でのお客様への説明などを通じ、新たなリードを創出しています。
――先ほど、ノバセルの掲げる「マーケティングの民主化」に惹かれて入社を決めたとおっしゃっていました。入社して、ノバセルでの取り組みが「マーケティングの民主化」の実現につながっていると感じる瞬間はありますか?
そもそも、日本ではマーケティングの本質をきちんと理解され切っていないのが現状だと思っています。「マーケティング=広告宣伝」と勘違いしていたり、技術や手法が足りなかったりしているために、限られた予算のなかで「本当に価値のあるマーケティング活動とは何か?」を見極め、自力で実行することが困難な企業もまだまだあるように感じます。
そういった企業に対してノバセルが支援していくことで、プロのマーケター集団がいる大企業と同じような形で、効率的なマーケティング活動ができるようになる。誰もがマーケティング手段を上手く使いこなせる状態をつくり、世の中のサービスが正しく成長できる世界を創造していくことがノバセルの考える「マーケティングの民主化」です。
これまでのテレビCMというと、大手広告代理店と組み何億円もの予算をかけて制作するものの、投資対効果をデータで可視化することができませんでした。そこに、IT技術を駆使した運用型テレビCMという新たな市場を生み出して「投資対効果が分かるテレビCMを少ない予算から実施できますよ」と提案し、市場を拡大していったのがこれまでのノバセルです。これが「マーケティングの民主化」実現への第一歩だったと言えるでしょう。運用型テレビCMから派生して、現在は複数のマーケティング関連サービスを展開してきていますが、最近、リソースとノウハウの提供をおこなう「メディアオーディット」という新たなサービスをスタートしました。「マーケティングの民主化」の実現に向けた重要なドライバーと位置づけ、特に注力しています。
――「メディアオーディット」とはどういったものでしょうか?
ノバセルが第三者の立場で、広告主である企業のビジネスKPIに紐づくテレビCMの効果指標を定義し、プランニング設計、バイイングの評価スキームを構築して、広告代理店やテレビ局とのコミュニケーションも伴走しながら、ディレクションの内製化と業務効率化を実現するサービスです。
たとえば「ナショナルクライアント」と呼ばれる大企業では、数年ごとに人事異動があるケースも多く、それまで営業をしていた人が突然マーケティング担当になる、といったことが起き得ます。それでも、担当者は広告代理店の方と対等に話をし、データを読み解き、PDCAを回して成果を上げなければなりません。
明確な指標を持ち合わせていない状況下でも、ノバセルに在籍する広告代理店やテレビ局出身者などのプロ人材が介在することで、バイイングの適正化と、広告代理店の自助努力・改善を促進し、マーケティング活動を最適化することが可能になるのです。
――自社でプロのマーケターを抱えずとも、ノバセルと組むことで成果を出しやすくなるということですね。
おっしゃる通りです。広告代理店は、出稿を経て成果が出たものについては注目して共有してくれますが、費用対効果が見合うかどうかまでは、広告主の企業自身で分析してみないと分からないものです。ノバセルが入ることで、良い意味でブラックボックスを開けて客観的に効果測定をおこない、ガバナンス機能も果たすことができると考えています。

新たな取り組みで、ノバセルの第二創業期を支える
――ノバセルのマーケティングチームが、今後力を入れていくことは何ですか?
「メディアオーディット」には引き続き力を入れていきたいと考えています。導入いただいたとある大手企業様では、約半年でCMの検索リフトやショールームへの新規来場者数が大きく伸長するなど、成果も続々と出ています。
日本のマーケティングの世界では、大手の広告代理店が仲介して出稿するのがスタンダードな形として長年続いています。そこに対して、良い意味で第三者の視点を持ってノバセルが関わることで効果を最大化でき、広告・マーケティング業界におけるエコシステムをつくっていけると考えています。
マーケティング効果を最大化させるためには、透明性の高い、データドリブンなアプローチが必要不可欠です。その役割をノバセルが担っていければと思っています。
――その他に、今後力を入れていくポイントはありますか?
ノバセルのマーケティング組織内に「MOps」の概念を入れていきたいと考えています。「MOps」をわかりやすく言い換えると、数字に基づいて組織内で横串となってマーケティング活動の管理をおこなう部隊のことです。どのメッセージ、どの手法が効果的だったのか、数字を見て全体を効率良く管理する体制が必要だと思っています。
今以上に数字を科学し、マーケティングを科学できる体制にしていきたいと考えています。外資系企業では当たり前の組織体系なのですが、日本企業には「MOps」の概念はあまりなく、伸びしろが多い。ノバセルのビジネスや企業文化に合う形で、組織体系やマーケティング手法をインストールしていきたいですね。
――今のノバセルに飛び込むと、どのような成長機会を得られますか?
今のノバセルは、組織の変化だけでなく、主力の運用型テレビCM以外のビジネスをどう伸ばすかを考える「第二創業期」に突入しています。
私自身、CMOとしてマーケティングの組織をCEOの田部からすべて委譲され、大鉈を振るってダイナミックな変革を起こしてるところなので、今ノバセルに加わっていただければ、種まきからそれが実を結ぶまでを経験していただけるのではないでしょうか。
また、少数精鋭の組織であるため、非常に大きな裁量権があります。決められた予算のなかでマーケティングの施策をどんどん回していきたい、という人にはぴったりの機会を提供できます。
――今のノバセルで活躍できるのは、どのような方でしょうか?
ひとつは、セルフスターターの方。ご自身で「これをやってもいいですか?」と発案し、理論立てて説明でき、実行に移せる方が向いていると思います。
また、多様性と変化を受け入れる柔軟性があることも重要です。ノバセルはまだまだベンチャーなので、動きが早い組織です。最近では、さまざまな業界・バックグラウンドの方が参画してきていて、それぞれが「自分の常識は人の非常識」と痛感する場面も増えています。ですから、多様性を受け入れ、自分の常識を疑い、柔軟に変化ができる力は重要です。
業務に目を向けても、今日は40代の男性向けのマーケティング施策を考え、明日はZ世代向けを考える、といった動き方になるかもしれません。絶えず価値観のチャンネルをいじってチューニングできると良いですね。
私はCMOですが、CMOだからえらい、ということはないと思っています。肩書はただの役割。私は登る山を決める役割で、そこへの登るルートを決めるのはチームメンバーの皆さんです。同じチームで働けることを、楽しみにしています!
