業界No.1のダンボールワンをさらに拡大するために。ラクスルとのM&Aによって生まれたシナジーと、ダンボールワンのこれから
ラクスル株式会社 ラクスル事業本部 ダンボールワン統括 Director
前川 隆史
Takashi Maekawa
2010年に新卒で株式会社ドワンゴに入社し、Webマーケティング・事業管理に従事。2013年、株式会社カカクコムに転職し、食べログの店舗向け商品開発やパートナーとのアライアンス企画に携わったのち、新規事業を立ち上げて運営。2016年にラクスル株式会社に集客支援事業部PdMとして参画。その後、集客支援事業部長、タレントアクイジション部長(エンジニア採用責任者)、印刷事業部長を歴任し、2021年に株式会社ダンボールワンへ出向し、2022年より執行役員に就任。2023年8月、ダンボールワンがラクスルと完全統合し、現在はラクスル事業本部にてダンボールワン事業統括を務めている。
オフラインのオペレーションにまで入りこめるサービスに携わりたかった
――前川さんのこれまでのキャリアを教えてください。
2010年に新卒でドワンゴに入社し、「着うた」のマーケターになったのがファーストキャリアです。その後、動画共有サイト「ニコニコ動画」の事業管理を担当しました。「より事業に関わる立場になりたい」と思うようになったことから、「食べログ」を運営するカカクコムに転職しました。
カカクコムに転職した当初はサービス企画に携わっていましたが、少し経ったころに新規事業を起案して2年ほど担当。立ち上げた事業が成長を遂げ、フェーズが変わったタイミングで「もう一度、アーリーフェーズの事業に挑戦したい」という気持ちが芽生え、当時社員数50名程度だったラクスルに入社しました。
――ドワンゴ、カカクコムと、続けて知名度の高い企業で働かれていますが、2度目の転職でまだ規模の小さなラクスルを選んだのはなぜだったのでしょうか。
新卒で入社したドワンゴはtoCのサービスだったので、お客様からのフィードバックは「ダウンロード数」のようなわかりやすい数字で返ってきます。それがやりがいにもつながっていましたが、食べログで飲食店向けのサービスに携わるなかで、お客様への解像度を高めて行動に落とし込むことは、より意義深く面白い仕事だと思うようになりました。
ひとつの飲食店に向き合って得られたフィードバックを抽象化して、汎用性を持たせることで、他の飲食店にも貢献できる。定量と定性のフィードバックが受けられるため改善に生かしやすく、お役に立てたという介在価値を強く実感することができたのです。
さらに飲食店の現場の業務まで足を踏み入れてみると、Webだけでは完結できない課題の方が多いのだと気付かされました。そうして、オンラインのみならずオフラインのオペレーションまで入り込んでいけるサービスで価値提供をしていきたいと考え、領域・フェーズの双方で挑戦機会が豊富なラクスルを選びました。
――ラクスルでは、入社当初どのようなお仕事を担当されていましたか?
初めは、印刷事業の次の事業として立ち上がった広告事業(集客支援事業部)のPdMを担当していました。その後、エンジニア採用責任者としてタレントアクイジション部長になり、1年後に印刷事業部長に着任。2021年にダンボールワンに参画しています。
M&Aを経て、ラクスルとダンボールワンに生まれたシナジー
――ラクスルからダンボールワンに参画した経緯を教えてください。
入社した2016年当時は50人ほどの若く小さな組織だったラクスルですが、少しずつ体制が整い、私が担当していた印刷事業部も次第に組織が拡大していきました。「自分よりもっとこの組織を牽引するのに適任な人がいるかも」と考えていたころに、ラクスル初のM&Aの案件としてダンボールワンの話が上がり、「ぜひ携わらせてください」と手を挙げたことが参画のきっかけです。
――参画の決め手になったことは何ですか?
正直、ダンボールという商材に対してものすごく興味があったかというとそんなことはありませんでした。ただ、ダンボールワンの前代表と「ダンボールワンがどのようにして社会に価値提供できるのか」について意見交換をした際に、「ダンボールや梱包材を必要とする企業は幅広い一方、それらは多くの企業にとって事業価値の主たる要素にはなり得えない。だからこそ、ダンボール・梱包材の領域にテクノロジーの力を持ち込んで効率化させることは、梱包材利用企業の負担を減らし、自社の本質的なサービス価値に向き合うことへの助けになるのではないか」、また「ダンボール・梱包材の業界は、実に100年以上もの間、産業構造が変化してこなかった。それを効率的に変革できるのは、梱包材ECをリードしてきた我々にしかできない大きな価値だ」という話を聞いて、非常にワクワクしたんですよね。
さらに、実際のKPIを見せてもらったところ、足し算ではなく掛け算のように事業が強くなっていく構想がなされていたことから、いっそう強い関心を持つようになりました。
加えて、ダンボールワンはリピート率も定着率も高い。なぜなら、事業者は発送の過程で必ずダンボールを使うので、大きな問題が無ければ業者を変える理由もないからです。事業基盤も顧客基盤も盤石だからこそ、投資もしっかりできる。そんな環境でビジネスの拡大に携われるのは、非常に魅力的だと感じました。
――現在担当しているお仕事はどのようなものですか?
ダンボールワンのビジネスは、全国のダンボール会社をネットワークし、プラットフォーマーとして事業者さんをおつなぎするものです。これまでダンボールは、事業者さんが欲しいと思ったものをダンボール会社に注文し、都度オーダーメイドのダンボールが提供されていました。商品にぴったりフィットするダンボールを作成できるというメリットがある代わりに、単価は高くなりやすく、大きなロットでしか注文できないというデメリットもありました。
そこでダンボールワンは、ダンボールを6,000種類ほどに規格化し、小ロットでの販売を可能にしました。小規模事業者さんをたくさん集め、在庫リスクをマネジメントしながら、小ロット・低価格のダンボールを提供しています。
私はP/L責任者として事業運営に従事しながら、より事業を成長させるために、EC事業を抜本的に改革するプロジェクトも進めています。さらに、これまでのお客様は「SMB(中小企業)のEC事業者」がメインでしたが、その領域に限らずお客様を拡張するための新規事業も同時にリードしています。
――「全国のダンボール会社をネットワークし、プラットフォーマーとして事業者をつなぐ」という基本的なビジネスモデルは、ラクスルと共通しているのですね。ラクスルとのM&Aによって生まれたシナジーはありますか?
知識や知見をラクスルからインプットできるようになった点は大きなシナジーですね。たとえば、現在ダンボールワンが扱っているダンボールは無地のものがほとんどですが、今後はロゴや商品名を印刷したダンボールにも注力していきたいと考えています。そうなったときに、ラクスルの印刷事業の知見が多く生かせます。
また、ラクスルもダンボールワンも、リアルな物を動かして成り立つサービスです。同じトラックにチラシとダンボールを混載することで配送効率を高められるのではないか、倉庫を共有することで配送の柔軟性が増すのではないか、といった「こんなことができたらより良いのでは」というアイデアも積極的に共有し議論できるのは、ビジネスモデルの近い事業ならではだと思っています。
――製造ノウハウや技術のシェアだけでなく、事業のより上流の部分にもシナジーがありそうですね。
そうですね。ダンボールワンでは今後、SMBからエンタープライズに顧客を拡大していきたいと考えています。ラクスルでも過去に同じようなプロセスを踏んでおり、いわばダンボールワンの2~3歩先を行っている状態です。そのため、「こんなことやろうと思っているのですが、どうですか?」といった相談や議論は日々おこなっていて、そこで得たフィードバックを実際にサービスに反映もしています。
さらに、ラクスルにはエンジニアやデザイナー、データサイエンティスト、マーケターやセールスなどの職種の社員が在籍しています。ダンボールワンの事業を成長させる中でも、ラクスル内の多様な知見を借りる場面が多々あります。
複数の事業を数百億円規模に。前川さんが見据えるダンボールワンの未来
――2023年8月、ダンボールワンはラクスルと完全統合を果たしました。「ラクスル事業本部」の一部門という新体制のもとで、ダンボールワンは今後、どのように成長・展開していくのでしょうか。
大きく2つあります。
1つは、ダンボールだけでなく、梱包に関わる予算を丸ごとお預かりできるようなサービスをつくっていくこと。現状のダンボールワンは、主に事業者さんの「梱包に関わる予算」のうち、ダンボールの予算だけをいただいています。
ただ、事業者さんが梱包について考えるとき、そこにはダンボールだけでなく、テープ、緩衝材、箱詰めするための人手など、さまざまなものが含まれています。それらを丸ごと預けていただけるような存在になりたい。そのためには、品揃えだけでなく、サービス全体を再構築していく必要があります。ダンボールワンを単なる「ダンボールEC」に留めず、「体験」として梱包に関するあれこれを届ける会社にしていくために、何ができるのか。ここは長期で考えていきたいですね。
もう1つは、対象顧客領域を広げること。今のメインのお客様はSMBのEC事業者ですが、リアルな店舗を持つ企業、製造業、エンタープライズ企業……と、違う業種にも提供していきたいと考えています。そうなると、提供すべき商品はダンボールだけでなくショッパーやテープなどにも広がっていきますし、求められるサービスも変わってくるはずです。まずは「どうしたら他の領域にも価値提供できるか」を探索していく必要があります。
もちろん、現状の「SMBのEC事業者向けのサービス」にもまだまだ伸長の余地はあります。それ単体でも1000億円規模を目指せる事業だと考えているので、そこを伸ばしながら、先に伝えた事業も数百億円規模に育てていきたいと考えています。
――スピード感を持った成長を目指すために、いま必要な人材はどのような人でしょうか。
まずは、事業を構造的にとらえて課題設定ができる方です。今のフェーズのダンボールワンには、できること・やるべきことがたくさんあります。新規顧客の獲得も当然重要ですし、プロダクトを使ってもらう中での「体験」をどのように良くしていくかも、在庫管理や運送コストについて改善することも大切です。大事なことがたくさんある一方、リソースには限りがあるので同時にすべてのことはできません。論点が多岐に渡るなかで、物事を構造的にとらえ、「何が重要なのか」「リソースをどこに置くべきなのか」を課題設定できることが大事だと考えています。
また、周りを巻き込む力を持っている方を歓迎します。私自身、ダンボールワンに参画したときにダンボールや配送の知識があったわけではありません。しかし、社内にはさまざまなバックグラウンドや知識を持つ人たちがいたので、積極的に話を聞いたり、協力を仰いだりしながら事業を推進してきました。
先ほどもお話しした通り、ビジネスモデルとしても、事業フェーズとしても、ダンボールワンには議論すべき論点が非常に多い。だからこそ、自分一人の視点にこだわらず、周りの人を巻き込みながら物事を進めていくことが重要だと考えています。
――そのほかに、ダンボールワンに参画するうえで必要な経験などはありますか?
ベンチャーや新規事業の立ち上げに携わった、もしくはスタートアップ企業でひとつの事業の責任者を務めた経験がある方は、特にフィットすると考えています。ベンチャー・スタートアップや新規事業では、多くの機能が論点になると思います。それらを思考し実行してきた方々にとって、より経営に近い立場で責任を広範に背負いながら事業をドライブできるダンボールワンは、魅力的なネクストステップの場に感じてもらえるのではないかと思っています。
ただ、過去に事業責任者を務めていた経験はマストではありません。その肩書がなくとも、自分が与えられた役割に対してきちんとロジックを持ったうえで、その他の役割に対しても「こうすべきなのでは?」と思考が染み出していくような方でしたら、存分にご活躍いただけるのではないかと考えています。
――最後に、今のフェーズのダンボールワンに飛び込むことで得られるチャンスを教えてください。
ダンボールワンは現在、国内のダンボールEC市場で圧倒的なシェアを誇っています。世界的に見ても先行事例があるわけではないので、自分たちで切り開いていかなければいけない部分が多くあります。言い換えれば、ダンボールワンが構築したことが業界の常識になっていくので、大きな影響力とチャンスに富んだ環境で価値創出をし続けることができます。
先ほど未来の展望をお話ししましたが、まだ一つひとつの領域ごとに個別の事業責任者はいません。領域が拡張しているフェーズだからこそ、いくつも椅子が空いている状態なので、そこに座るチャンスも成長の機会も豊富だと思っています。
また、私自身がそうだったように、ラクスルとダンボールワン、今後新たにM&Aを通じてグループインする会社の間を行き来しながら、新たなキャリアをつくることもできるはずです。新規事業の責任者として入社し、既存事業の責任者たちともコミュニケーションを取って互いに刺激し合いながら事業を育て、大きくなったらまたグループ内の新たな事業にチャレンジする。そんなキャリアを描けるのは、ラクスルグループならではだと考えています。