M&Aでグループインした「ハンコヤドットコム」。新社長が成し遂げたい、ハンコ事業の未来とは?
株式会社ハンコヤドットコム 代表取締役社長CEO
柳 晋平
Shinpei Yanagi
2006年に大学を卒業し青年海外協力隊に参加。帰国後、サガ日本株式会社(現 Bollore Logistics Japan)に入社し、海外向けプラント輸送の営業やプロジェクト推進などを担当。その後、米国への私費留学と株式会社ミスミグループ本社での経営企画業務を経て、2021年2月にラクスル株式会社へ入社。ラクスル事業本部にて、印刷事業部長として商品開発やマーケティングに携わる。2023年11月より、M&Aでグループインした株式会社AmidAに出向。同社のマーケティング統括本部長として「ハンコヤドットコム」事業のWebマーケティングやサイト運営、商品開発などマーケティング領域全体を管掌した後、2024年7月に株式会社ハンコヤドットコム 代表取締役社長CEOへ就任。
ITの領域に踏み出し、リアルな産業のDXや効率化に貢献したい――インターンを経てBizDevとしてRAKSULへ
——はじめに、RAKSULに入社するまでのキャリアを教えてください。
2006年に大学を卒業し、青年海外協力隊として海外で働いた後、物流企業の「フォワーダー」と呼ばれる仕事に就きました。フォワーダーとは、自社では輸送手段を持たず、他社の輸送サービスを組み合わせて貨物輸送のパッケージを売る代理店業のようなものです。8年近くやりがいを持って働くなかで、経営を学んでよりビジネススキルを高めたいと思うようになり、米国のビジネススクールへの私費留学を決意しました。
RAKSULを初めて知り、接点を持ち始めたのはフォワーダー時代でした。実家の家業が印刷関連ということもあり、印刷業界のニュースには常々注目していたのですが、2015年頃にRAKSULを知ったときには「印刷業界で、こんな面白い事業をやっている会社があるんだ」という印象を受けました。ちょうど通っていたビジネススクールの卒業生で、以前RAKSULで働いていた人に出会いました。その方との接点をきっかけに、ビジネススクールの1年目が終わった夏休み期間には、RAKSULでインターンを経験させていただきました。
ビジネススクール卒業後は、製造業向けに機械部品や金型部品を販売しているミスミグループ本社に入社し、経営企画を担当。コーポレート部門で働くなかで、次第に「より手触り感があり事業に直接的に貢献できる、事業サイドのポジションで働きたい」という思いが強くなりました。同時に、ITの領域に踏み出してリアルな産業のDXや効率化に寄与していくことが、この先5年、10年後の自分の価値向上にもつながるのではないかと考えました。そのなかでも、ITの力で業界に変革をもたらし始めているRAKSULの、事業経営者として数多くの意思決定の機会が得られるBizDevというポジションに魅力を感じ、RAKSULと再び接点を持ちました。
事業を任せてもらえる裁量の大きさと、採用担当の方が「社内でこういうプレゼンスを作って、次はこういうチャレンジをして、このポジションを目指そう」とキャリアパスを一緒に考えてくれ、社内で貢献するためのアプローチが明確になったこと、インターンと選考時のワークサンプルを通して、ディスカッションのレベルが高く学べることが大きいと感じたことも後押しとなり、2021年2月にRAKSULへ入社するに至りました。
M&Aでのグループインと同時に、ハンコヤドットコムのマーケティング統括本部長へ抜擢。今年7月より社長に就任
——2021年の2月から2023年10月までをラクスル事業本部で過ごされた柳さん。どのようなお仕事を担当されていましたか?
入社後、最初に課せられたミッションは、印刷EC「ラクスル」の主力商品であるチラシ印刷にオプションをつけ、クロスセルおよびアップセルを目指しましょう、というものでした。チラシ・フライヤーは、印刷事業のなかでも売上構成比が大きく、1%伸びるだけでも事業全体に大きなインパクトが生まれます。
当初、ミッションを達成するために複数の施策を検討しましたが、入社時の私の解像度と推進力不足で、サプライヤーとの調整や開発チームとの連携が難航し、思ったように進められないという苦しい時期を経験しました。その後、半年、1年と試行錯誤するなかで、事業や組織の構造、連続と非連続成長を両立させる動き方などを徐々に理解できるようになり、歯車がかみ合っていったように思います。
実際に、2年目は部門のフォーカスを商品開発に絞った結果、一定の事業インパクトを生み出すことができました。私はユーザーインタビューなどを通じて、取り扱っている商品の仕様および品揃えに改善の余地を見出しました。そうして新規のお客さまに選ばれ、既存のお客さまにもより多くの商品を購入いただけるようなECを目指し、他部署との連携を深めて品揃えを拡充することで、競争優位性の向上を実現していきました。
また、今でも忘れられない経験のひとつに、2年目の下半期に起こった繫忙期の対応が挙げられます。当時、印刷ECの競合他社の稼働が一時ストップしたことを引き金に市場全体で供給不足となり、受注量と印刷パートナーへの発注を制限しなくてはならないという事態が発生したのです。私は約1か月半にわたって、緊急対策チームのメンバーと毎日管理画面に張り付き、リアルタイムの生産キャパシティと財務数値を見ながら、販売・発注のコントロールや大口顧客の対応などを行いました。まさに修羅場でしたが、お客さまの期待を裏切ることはできない、そしてRAKSULの主力事業として失敗するわけにはいかない、という責任感で乗り切ったことが記憶に強く残っています。
——その後ハンコヤドットコムのM&Aと同時に、柳さんも同事業へ出向されています。どのような形で打診されましたか?
大元の経緯として、RAKSULでは2023年8月の社長交代以来、内製での立ち上げに加えて連続的なM&Aによって成長していく方針を掲げています。新体制下では初となるM&Aが、同年10月に実施した、「ハンコヤドットコム」を手掛ける株式会社AmidAホールディングス(現 株式会社ハンコヤドットコム)のグループインです。ラクスル事業本部の一部門として、印刷事業の周辺領域まで広げて取り扱っていくことで、市場・商品を拡張し、お客さまにとってより価値のあるECサイト・プラットフォームを構築していくことを主な狙いとしています。
私に正式な出向の辞令が出たのは11月でしたが、打診はその数か月前でした。ラクスル事業本部を統括する上級執行役員 SVP of Raksulの渡邊から突然「1on1をしましょう」とダイレクトメッセージが届いたのです。そして、ハンコヤドットコムのM&Aについて、デューデリジェンスの状況などを共有され、「PMIの責任者をやってみませんか」と尋ねられました。
正直なところ「今、ここで決断しなければならないの?」という驚きと、「この会社のことをまだよく知らないのに大丈夫だろうか」「担当している事業部の今後についてはどうしよう」など、頭の中で色々な考えが飛び交いましたが、もし断ったらいずれ後悔するとはっきりイメージできたので「やります!」とその場で返事をしたことを、今でもよく覚えています。
——PMI責任者として出向された柳さんは、2024年7月より社長に就任されています。現在はどのようなミッションの達成を目指しているのですか?
PMIを3つのフェーズに分け、フェーズごとにミッションを定めています。
フェーズ1は、既存組織と関係性を構築しつつ、成長のドライバーになると見ていたWebマーケティングで事業をコントロールすること。フェーズ2は、印刷EC「ラクスル」とハンコEC「ハンコヤドットコム」のクロスセルを実現させ、シナジーを生み出すこと。そしてフェーズ3は、ハンコヤドットコム単体でも再成長を加速できるような事業体を創造することです。
特にフェーズ3をもっとも重要なテーマと位置づけ、現在は社長としてこれらのミッション達成に向けて、平日は本社のある大阪へ出張しながら邁進中です。
——ハンコヤドットコムの再成長に向けて、市場全体の変化やRAKSULグループならではの強みと併せて、柳さんの考えや目指す方向性について教えていただけますか?
ハンコ業界は印刷業界と近い構造を持っています。市場全体を見れば、今後大きく伸びる可能性は小さいでしょう。国内の人口自体が減っていますし、デジタルデバイスの台頭により、紙の需要もハンコの需要も確実に減っていきます。マクロトレンドを見ると逆風の環境であることは間違いないと考えています。
一方で、業界内でのEC化率は年々上がっており、今後も上昇していくと見込んでいます。EC化への移行にあたって私たちができることはたくさんあり、まずはオンライン市場のなかでいかにシェアを伸ばすか、また現在アプローチできていないオフラインの市場とどのように関わっていくかの2点が肝になってくると考えています。
例えば、街中には今なおハンコ屋さんが数多く存在します。リアル店舗ならではのアクセスの良さや対面の安心感があるからだと思います。これら我々が獲得できていないお客さまに対しても、リアル店舗と連携して強みを掛け合わせることで提供価値を高め、オフラインのハンコ屋さんを巻き込んだ産業の変革を起こせるのではと考えています。
また、取り扱う商品のなかでも、特に「スタンプ」はポテンシャルを秘めた領域だと感じています。印鑑の購入は主にライフイベントにおける慣習であり、「なければならないから買う」、また「一度買うと何十年も使える」という側面があります。一方でスタンプ、いわゆるシャチハタやゴム印は、業務効率化のためのツールです。印刷と手書きの中間に位置すると考えていて、印刷ほどの大量部数への対応は難しいですし、手書きほどの柔軟性はないですが、一度作成すれば決まったテキストやデザインを気軽に複写できるという強みがあります。
実際にお客さまのお話を聞くと、医療業界や物流業界をはじめ、紙がないと回らない現場は今もさまざまな業界に存在し、そのような現場でスタンプは非常に重宝されています。法人のお客さまからのニーズもリピート率も高い商品なので、スタンプのカテゴリには成長可能性を感じています。スタンプの市場において、オンラインでもお客さまがイメージした通りのデザインで作成し早くお届けするという点では、ラクスル事業が培ってきたこれまでのノウハウが存分に活かせますし、テクノロジーの力で利便性を向上させ、さらにスムーズな注文体験を提供できると思っています。
PMI初期に参画する面白さは、“経営レイヤーに入り込める可能性”があるところ
——ハンコヤドットコムの現在の組織体制を教えてください。
RAKSULにグループインする前は、創業メンバーに加え、管理部長、マーケティング責任者、生産・CS販売の責任者が中心となって組織を編成していました。グループインした後は、RAKSULから社外取締役や組織統括として参画しているメンバーがおります。先述しましたが、私もその一員としてマーケティング統括本部長を務めた後、今年7月より社長に就任しました。
現在は、事業成長を加速させるため、SCMとBizDevのメンバーを募集しています。
——SCM、BizDevそれぞれ、どのような資質をお持ちの方を歓迎されますか?
今のハンコヤドットコムには、お客さまの購買体験を良くするため、業務効率を上げるためにできることがまだまだあると考えています。SCMのポジションには、受注したものを生産し出荷するまでのプロセスにおいて適切に課題を設定し、改善に向けて強いオーナーシップを持ち、しっかり分析・実行していける方が必要だと思っています。
今後、事業を成長・拡大していくうえで生産領域においても大切なのは、見える化して改善のアクションを起こしながら仕組みをつくり、再現性を高めることだと考えています。だからこそ、一つひとつの自分たちの取り組みや成果をきちんと管理し、定量的に見られる状態をつくり、効率的に改善を進めていくために必要なスキルや経験を持った方に、ぜひジョインいただきたいです。
BizDevのポジションについては、ミッションに「オフラインを含めた販路の拡大」と「印影デザイン工程の効率化・自動化」という2つのテーマを掲げています。
後者について補足すると、通常、印鑑やスタンプを製造する際には、印影デザインを作成するプロセスがあります。印鑑の場合は、ユニークな印影になるよう一つひとつ作っていますし、スタンプでも仕上がりがお客様の求めるイメージになるよう手間をかけて作成しています。製造上必要不可欠で、かつ大きな価値を生んでいるプロセスですが、同時にキャパシティを拡大する上でのボトルネックにもなっています。
このデザイン業務を効率化もしくは自動化することができれば、製造の効率化はもちろん、お客さまが購入する際にトータルのリードタイムを短縮することができ、ハンコECとしてさらに進化できると考えています。BizDevの方には、開発案件としてではなく「どうすればより良い体験を届け、事業成長につなげることができるか」という目線を持って、プロジェクトを推進していただけたらと思っています。
私もBizDevの一人として動くつもりなので、新しく参画される方の強みを生かせるよう、2つのテーマを役割分担しながら推進していきたいと考えています。
——今のタイミングで、ハンコヤドットコムにSCMやBizDevとして参画する魅力は何でしょうか?
ハンコ業界には、RAKSULグループのビジョンである「仕組みを変えれば、世界はもっと良くなる」を叶えられるような変革余地が多々あります。手触り感を持って業界変革を推進できるところが、特に魅力的なポイントなのではないかと考えています。
また、PMIの真っ只中の今であれば、SCMもBizDevも活躍次第で経営レイヤーに入り込める可能性がある点も挙げられます。事業をいかに伸ばすのかはもちろん、組織をどうつくるか、業界のEC化をどのように牽引していくかなど、経営視点で多岐にわたる決断の場数を踏みながら、成長していける環境があります。事業・組織の両面を背負うことは、候補者の方のキャリアにとってもまたとない経験になるのではないでしょうか。
——最後に、RAKSULグループ、そしてハンコヤドットコムの事業への参画を視野に入れている方にメッセージをお願いいたします。
論理的な思考を持ちながら、オーナーシップを持って行動に移す泥臭さやアグレッシブさのある方、チャレンジングな環境に身を置き自ら事業をつくって伸ばし、社会をより良くしていきたいと考える方には、RAKSULグループそしてハンコヤドットコムは最適な環境だと思います。
ご興味をお持ちいただけましたら、まずはぜひお話しさせてください。お待ちしております!
※ハンコヤドットコムのSCM・BizDevポジションに関する詳細は、こちらからご覧いただけます
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