「数字に現れないCM効果をいかに哲学的に妄想できるか」--マーケティングをデータから支えるなかでたどり着いた境地
ノバセル カスタマーサクセス部長
本村 直知
外資系広告代理店で、データを軸にしたオンライン・オフライン統合のメディアプランニングに長年従事し、マーケティング支援会社を起業。2021年からノバセルに参画し、カスタマーサクセス責任者として、テレビCM領域に限らず、横断的な分析の支援を行う。
「マーケティングの民主化」への共感。広告予算の大小に関わらず、誰もがマーケティングによって事業や売上を伸ばすことができる仕組みを作りたい
-ノバセルに参画されるまでの経歴を教えてください。
大学・大学院ではまったく違う分野を学んでいたのですが、いざ就職活動となったときに目指したのはCM/広告業界でした。小学生のころからテレビCMが好きで、今でも印象に残っているCMがいくつかあります。
実際に広告業界の第一歩を踏み出したのはイベント制作会社でした。セールスプロモーションの企画を作ったり、実際にイベントに立ったり。最前線でユーザーに向き合う仕事の楽しさを感じつつも、インパクトを与える母数、売上への貢献が見えにくい点に引っ掛かりを感じていました。よりクライアントの近くで仕事をしたい、メディア領域での知見を深めたいと思い、外資系広告代理店に転職しました。
当時はまだ広告業界がWebに本腰を入れていなかったのですが、その代理店ではテレビなどのオフラインと、オンラインの数値を組み合わせ、どのようにプランニングしていくのか、数字のシミュレーションを徹底して行っていました。それがいまの業務と通底している部分です。
-その会社には8年ほど在籍されたそうですが、新たなフィールドを求めるきっかけはどんなことだったのでしょうか?
長くお付き合いしているクライアントにある日「広告予算が追加されたので、なにか広告プランを出してください」といわれたのですが、「予算消化することを目的に多額の広告費を投資するのか?」という疑問が芽生えました。日本の企業はほとんどが中小企業なのに、こういった潤沢な広告費を出せる大企業にばかり広告やマーケティングの知見や実績が積み上っていくことにも疑問を感じ、それならば自分の持っている知識や経験を提供できる場所、仕組みを作りたいと思ったのです。
-そんな中でノバセルを見つけられたのですね。参画された決め手はなんだったのでしょうか。
ノバセルのビジョンである「マーケティングの民主化」に共感したことが大きいです。先ほどお伝えしたように、僕は大企業だけではなく、誰もがマーケティングによって事業や売上を伸ばすことができるようにお手伝いがしたいと思っていました。「民主化」とは「誰もが自分たちの手でできるようにする」という意味で、ノバセルがそれを実現するためにプラットフォームを作ろうとしていることが純粋に素晴らしいと感じたのです。
もう一つは、今まで自分がスモールチームにしか所属したことがなかったので、勢いのあるスタートアップというのはどういった組織なのか、そこに対する興味もありました。
データ分析から顧客を支える、ノバセルのカスタマーサクセス
―実際にノバセルに入社してみての印象はいかがですか?
想像以上にカオスでしたね(笑)。でも、それが新たな市場を創るパイオニア企業、勢いのある組織の初期の実態でもあるんじゃないかと思います。
もうひとつ感じたのは、マーケティングを大事にしてる会社だということ。すごくロジカルな組織で、例えばなにかツール一つを導入するにしても、「課題設定はなにか」「どういった影響があるか」とすぐに議論になる。「神は細部に宿る」という言葉がありますが、小さい部分からしっかりと向き合ってるがゆえに、そういった社風やカルチャーになってるんでしょうね。それゆえ判断は早いですし、結論が出たら実装するまでのスピード感もあります。
―本村さんの担当されているCS(カスタマーサクセス)の業務を教えてください
一般的なCSはツールの使い方サポートがメインになっていると思いますが、ノバセルのCSはCM出稿で得られたさまざまなデータを分析して、顧客へのレポーティングや提案を行う分析クルーです。ノバセルのCM効果測定ツール「ノバセルアナリティクス」はすごくシンプルなツールなんです。そのため使い方のサポートはほとんど必要ありません。CSの重要な役割としては、データを複合的に分析して、CM効果を示唆し、ネクストアクションに繋げることです。
例えば、せっかくCM出稿したのに効果がないという顧客に対し、本当に効果がないのか、データ上で起こった事象からそれがどういった要素からもたらされたものなのかを分解し、判断します。表面上の数字だけを見てテレビCM自体を選択肢から消し去るのは、顧客にとっても良いことではないと考えています。それによって、成長スピードを加速させる選択肢を1つ消す可能性があるからです。
CSとしての喜びは顧客にサービスをリピートしていただくこと。CMを全国で放送したくてもできない、であればどのエリアが一番ポテンシャルが高いか。選択と集中の判断材料をお渡しする。手前味噌ですけれど、分析、レポーティングの手厚さには自信を持っています。付随する項目のインターネット調査をし、その分析までレポートすることもあります。もちろん労力はかかりますが、クライアントにとって新たな知見になればいいですし、ノバセルが顧客に「真のパートナー」として選ばれるために重要な業務だと思っています。
―業務を行う上で大切にしている思いはありますか?
CSとして持ってる哲学でいうと、アウトプットをわかりやすくシンプルにすること。理論武装したり、いわゆる「ブラックボックス」から出された情報では顧客は判断ができない。顧客が正しい判断を下せるための分析が、我々のミッションだと思っています。
もう一つ個人として大切にしているキーワードが「冷静と情熱の間」。アウトプットの質はその人の能力によるのですが、それでもパッションがある方が強い。企画書を例にすると、淡泊に作ったものはなかなかクライアントの意中に入っていかない。でも熱意を持って作り上げたものは、たとえクライアントが望むものと違っていてもディスカッションになることも多いんですよ。とはいっても熱すぎても摩擦を生みますし、そもそも分析がパッションだけというのもさすがにという部分もあると思います。 想いは熱いけど、アウトプットは冷静にというのが僕の信条です。
プライベートでの「遊び」で分析を深める
―今後の課題としてはどんなことを考えていらっしゃいますか?
まずはレポート領域における自動化です。レポートの元データがさまざまなところに分散しているため、集計の効率化を図るべく、レポート領域の自動化を現在テスト運用しています。自動化することで自分たちの時間を空け、一歩先の次の仕組み化を考えていきたい。そのためには自動化できるところはどんどん進めていきたいと思っています。
―では本村さんが一緒に働きたい人はどんなタイプの方でしょうか。
妄想力がある人。CSはデータを見て分析し、示唆を出すのですが、その見ているデータは事象のごく一部しか拾えていません。手元の数字から隠れている部分をどれだけ想像できるか、それが分析の勝負になってくる。ある複数項目の数字が上がってたときに、何と何が結びついてその事象が起こっているのか、数字的な根拠は手元の数字からは見えにくいけれども数字の裏側ではなにが起こっているかを想像できるか、できないかは全然違うんです。どれだけ哲学的に妄想できるか。それがCSの醍醐味であり、求められる能力でもあります。
―数字には現れない部分に対する感度には、経験だけでなく、アンテナを張るため情報収集などさまざまな要素が必要ですが、普段から仕事のために習慣としていることはありますか?
プライベートな時間ができたときは、なるべく外に出ます。広告というのは人をひきつけなきゃいけないもの。出かけた先で、どういった人がどういったブランドの化粧品を選んでいるのかを見たり、カフェで隣の席の人の会話を聞いたりするだけでも、どういった属性の人が、何に関心を持っているかを感覚的につかめてきます。自分の身の回りの商品・サービスは感覚的にも難なく分析につなげられるのですが、自分と距離のある領域―例えば女性にとっての化粧品―は、強引にインプットする場を作るしかない。分析のベースとなる視点や角度をどれだけ多く作れるか。そのためにはやはり楽しむこと、遊ぶことが大事だと思います。ノバセルのメンバーは優秀で真面目なので、もう少し「遊び」を大事にし、それを仕事に活かせるメンバーが増えればより深い分析もできるようになるし、少数派の僕としては非常に心強いです(笑)。