事業間シナジーを加速する、決済プラットフォーム構築の舞台裏――RAKSULの新たな挑戦
中小企業の経営課題をテクノロジーで解決することを目指すRAKSULは、複数事業を横断する決済プラットフォームの統合に挑戦しています。この取り組みには、次の2つの大きな目的があります。一つは、事業ごとに分かれていた決済基盤を一元化し、ユーザーに一貫した利便性を提供すること。そしてもう一つは、事業間の連携を強化し、シナジーを創出することです。
プロジェクトの第一段階では、決済プラットフォームの構築を完了し、アパレルEC事業との統合を完遂させました。この大きな進展をリードしたのは、プロジェクト全体を指揮する新原さんと、開発チームを統率する安尾さん。彼らの緻密な戦略と果敢な技術的挑戦が、プロジェクトを力強く推進しています。本記事では、RAKSULが目指す決済プラットフォームのビジョンと、その実現に向けた舞台裏に迫ります。
ラクスル株式会社 ラクスル事業本部 顧客戦略部部長
新原 秀作
Shusaku Shimbara
ヤフー株式会社(現・LINE ヤフー株式会社)に新卒入社。以降、freee株式会社を経て、2022年にラクスル株式会社へ入社。入社後は「ラクスル請求書払い」「決済プラットフォーム」「ラクスルプライム」などを担当し、現在は金融新規事業「ラクスルバンク」の事業責任者として、決済から金融領域に至る中小企業支援基盤の構築に邁進している。
ラクスル株式会社 テクノロジー本部 ラクスル事業 システム統括部 プロダクト基盤部部長
安尾 友佑
Yusuke Yasuo
大学卒業後、NTTコミュニケーションズに新卒入社。以降、ゲーム業界をはじめ、複数の企業を渡り歩いた後、2023年にラクスル株式会社へ入社。プロダクト基盤部のエンジニアリングマネージャーを務める。現在はDirectorに就任し、当社の事業拡大を加速させる「決済プラットフォーム」の構築に邁進している。
複数事業の決済基盤を一元化する狙い
――決済プラットフォーム構築プロジェクトの概要と、その背景について教えてください。
新原:2022年8月に本格始動したこのプロジェクトは、RAKSUL内で分かれていた各ECサービスの決済基盤を一元化し、ユーザー体験(UX)の向上と事業間シナジーの加速を目指しています。RAKSULはもともと印刷事業を中心に成長してきましたが、現在では中小企業を支援する「テクノロジープラットフォーム」へと進化しています。この決済プラットフォームの構築は、今後の成長戦略における重要な取り組みの一つです。
従来、各ECサービスは独自の決済UIやシステムを保有しており、ユーザーは異なる操作感に不便を感じ、開発者も同じ機能を各サービスで個別に開発するという非効率な状況でした。こうした課題を解決するため、すべてのサービスで共通の決済プラットフォームを構築し、一貫したUXの提供と開発効率の向上を図るという発想が、このプロジェクトの出発点です。
――この決済プラットフォームは、RAKSULが「End-to-Endで中小企業の経営課題を解決するテクノロジープラットフォーム」に成長していくうえで、どのような意味を持つのでしょうか。
新原:この決済プラットフォームは、RAKSULが中小企業の経営課題をより広範に解決するための「土台」となります。決済はすべてのサービス利用時に必ず発生する接点であり、この決済基盤を一元化することで、ユーザーに一貫して利便性の高い体験を提供できます。さらに、共通IDである「RAKSUL ID」を基軸に、複数のサービスをシームレスに利用できるエコシステムが形成され、ユーザーは1つのIDで効率的かつ手軽にRAKSULのソリューションを活用できるようになります。
これまでは、各サービスが独立して「クイック&ダーティー」での迅速な拡大を優先していましたが、今後は事業間での連携を深め、シナジーを生み出すことが鍵となります。RAKSULは現在、270万人以上の中小企業を顧客基盤として抱えており、利便性や手軽さを求める声が多く寄せられています。このプラットフォームを活用することで、こうしたニーズに応え、より強固なサービス提供体制を築くことができるのです。
UX至上主義がもたらした成果と意思決定の裏側
――決済プラットフォームの開発にあたって、特に重視した方針はありますか。
新原:私が最も重視したのは「UXをとにかく優先する」という方針です。通常、時間やコストを考えると、どこかでUXを犠牲にしてしまいがちですが、決済体験はユーザーとの最後の接点であり、利便性が注文決定率に直結します。BtoB環境ではUXが軽視されがちですが、私はこれまで多くの利用者を抱える大規模なBtoCサービスに関わってきた経験があり、少しの不備で問い合わせが爆増するという事態を目の当たりにしてきました。この経験から、決済画面の細かい文言やエラーメッセージの精度を徹底的に詰め、リリース前には何度も内部・外部調査を行い、導線設計まで丁寧に見直すことを徹底しました。
――その結果、具体的にどのような成果が出たのでしょうか。
新原:導入後、決済コンバージョン率は平均5ポイント程度の向上が見られました。BtoB商材において、これほど顕著な改善があったことは非常に大きな成果だと感じています。UXに徹底的にこだわり、社内外の調査と改善を継続的に行ったことが、この成果に繋がったと考えています。
「使われる基盤」への設計思想とエンジニアリングの挑戦
――実務面で統合を進める中で、実際にどのような課題に直面しましたか。
安尾:プロジェクトの初期段階では、「要件定義」と「設計」、さらには「画面設計」の整理に多くの時間を費やしました。複数のECサービスから現行の決済仕様や運用フローをヒアリングし、それらを全体最適な要件にまとめるのは一筋縄ではいきませんでした。特にシステム設計の段階では、RAKSUL全体のアーキテクチャを理解する必要があり、社内の知見者を巻き込みながら、毎週レビューを重ね、意思決定を行っていくという地道な作業が求められました。
――設計思想において参考にしたものはありますか。
安尾:世界には決済プラットフォーム分野で成功している企業が多くあります。StripeやAmazon Payなどの仕様を読み込み、グローバルスタンダードと大きく逸脱しない設計を心掛けました。このアプローチにより、後々の大規模な軌道修正や負債の発生を避けられると判断しました。
――進行管理上も難しさがあったのではないでしょうか。成功要因は何だったとお考えですか?
安尾:当初はガントチャートを用いて進捗を管理をしていましたが、大規模かつ長期にわたるプロジェクトでは進捗が見えづらく、遅れが発生するとリリース時期が不透明になるという課題がありました。そこで、バーンアップチャートを使って全体のポイントを可視化し、毎週どれだけ消化できたか(Velocity)を測定することで、定量的なマネジメントを可能にしました。この方法により、問題を早期発見し、追加リソース投入など適切な対処が可能になり、計画的なリリースを実現しました。
さらに、チーム内で完結せず、CTOや新原さんといったキーパーソンと早い段階で課題共有したことも大きな成功要因でした。人数は10〜15名程度のコンパクトなチームでしたが、現場と経営層が透明なコミュニケーションを保ち、人員追加など柔軟な対応ができたことが成功に繋がったと考えています。
決済プラットフォーム統合の道標と、次なる飛躍へのメッセージ
――このプロジェクトはビジョン実現への道のりの何割でしょうか。
新原:当初、決済共通化を進めることで多くの課題が解決されると考えていましたが、実際には全体目標の2〜3割程度に到達したに過ぎません。しかし、これは見通しを誤ったわけではなく、むしろ課題の深さと複雑さを改めて認識した結果です。決済プラットフォーム構築は確かに大きな一歩ですが、中小企業が抱える多面的な課題――財務や人的リソース、オペレーション効率化――を本格的に解決するためには、IDやデータ活用をはじめとするさらに広範な仕組みが必要です。会社全体の目標はもっと高く、遠いところにあります。
――技術者にとって、今のRAKSULはどう映るでしょうか。
新原:スクラッチで基盤を整備できるこの数年は、テック企業として非常に熱い時期です。中長期的な成長を見据え、内部開発者体験を向上させつつ、ユーザーにとって価値あるUXを提供します。そのような基盤設計を初期段階から担える機会は滅多にありません。自分のスキルやマインドを試し、大きな裁量を持って働ける環境です。新しい技術を試すだけでなく、事業戦略と一体化して考える力が求められるので、成長の余地が多く、非常にチャレンジングな環境だと言えます。
――具体的な技術的チャレンジは何でしょうか。
安尾:今後はEC接続先が増え、トランザクションやデータ量が膨大になることが予想されます。スケーラブルなシステム設計や、マイクロサービスにおけるデータの扱い方、性能最適化などが重要なテーマとなります。さらに、中小企業向けならではの複雑な業務ロジックへの対応や、将来的なAI活用の可能性も視野に入れています。これらを実現するためには、事業理解と高度な技術力の両軸を兼ね備えた“ビジネスを動かす開発者”としての役割が求められます。まさに、技術者としての成長と共に、ビジネス全体の進化に貢献できる大きなチャンスが広がっています。
――最後に、採用候補者へのメッセージをお願いします。
新原:経験豊富な方も、これからキャリアを築いていく方も、それぞれの得意分野を活かしながら基盤構築に携わる機会があります。「中小企業向け」というユニークな領域で、革新的な価値を創出したいという方には、まさに格好の舞台です。ご興味ある方は、ぜひ一度お話しましょう。RAKSULは印刷のイメージが強いかもしれませんが、今や印刷業界の枠を超え、マーケティングプラットフォームや金融プラットフォームといった最前線のテック企業として成長しており、その中での挑戦は他では味わえない貴重な経験です。
安尾:基盤をゼロから構築し、次の飛躍に向けた礎を築く極めて重要な時期にあります。この貴重なフェーズで得られる経験は、他社ではなかなか体験できないものです。特にBtoBの領域において、テクノロジーによって中小企業のビジネス環境をより良くしていくという、大きな影響力を持つ仕事に直接関わることができます。この役割を自らの手で支え、成果を実感する醍醐味をぜひ感じていただきたいです。