テクノロジーで世界をもっと良くするためにCTOが目指す“組織づくり”
ノバセル株式会社 取締役CTO
戸辺 淳一郎
Junichiro Tobe
サッカープレイヤーを増やすことをミッションに掲げた会社の創業・経営を経験し、2015年4月にNewsPicksに参画、VPoEを務める。2020年9月にラクスル株式会社へ入社し、ノバセル事業の開発をHead of Engineeringとして指揮する。2022年2月、ノバセル株式会社のCTOに就任。
まずは、戸辺さんがノバセルに入社された経緯を教えていただけますか?
私は勝負事が好きで、勝つことが好き。子供の頃からどんなゲームでも負けたら泣いて、勝つまでやろうと言っていましたし、学生時代は成績も一番にこだわってきました。そういう性分なので、仕事においても自分が今やっている領域に対してNo.1にならないといけないと常々思っています。
ノバセルは「マーケティングの民主化」というビジョンを掲げ、まずは最も民主化されていない領域としてTVCMを選び、”運用型TVCM”という新しい市場の創造に挑戦してきました。これまで、TVCMは効果がわかりづらく曖昧であるという課題をプロダクトの力で解決すべく、リアルタイムに効果を可視化する動きを進めていました。“運用型TVCM”という新しい概念を最初に持ち込み、その先頭を走っているという部分が、僕の”一番”という信念と合致していると感じました。
また、前職時代から「世界を変える」アプローチをしたいと考えてきたため、ラクスルの「仕組みを変えれば、世界はもっと良くなる」というビジョンへの共感が強かったです。「仕組みを変えれば」の部分には、ビジネスフローの変革はもちろん、エンジニアリングやテクノロジーの力で仕組みを変える、エンジニアとして世の中をより良く変えていけると実感できることに魅力を感じ、入社に至りました。
“一番”が大きなキーワードなんですね。そんな戸辺さんがCTOとして取り組んでいる組織づくりについて教えてください。
組織づくりにおいても「一番になる」というところにはこだわっていきたいですね。業界の中でも「あそこのエンジニアが一番だよね」「あそこのエンジニア組織が一番だよね」と認められる組織を目指しています。
とはいえ、エンジニアリングを用いてなにかを世に出していくときには“バランス”も問われます。組織としては苦手なものがあってはならない。一方で、個々人は得手不得手が明確になっていた方がいいと思っています。人の能力やスキルを表す際にレーダーチャートのようなものが用いられる場合がありますが、そのチャートをバランスの整ったきれいな形にしないといけないのは組織の方で、個人は歪な形でいいので尖った部分を持っていてほしい。組織の総合力は、メンバーの合計値でも平均値でもなく、レーダーチャートの各項目の最大値をつなぎ合わせた状態だと捉えています。バランス良く下位互換のような人よりは、できないところはあるが、今いるメンバーより突き抜けているところがひとつでもある人を集めた方が組織のケイパビリティは大きくなると考えています。だからこそ、技術的に尖った人を採用したいし、その尖った部分を活かせる組織にしていきたいです。
ちなみに、技術的な尖りとキャラクター(個性)の尖りは相関することもあればそうでないこともあるので、そこは分けて考えています。キャラクターの尖りについてはポジティブにもネガティブにも判断しておらず、ノバセルという組織においてその人の能力が発揮できるかが焦点ですね。採用においてはマッチングが最重要と考えていますので。
採用においては「マッチングが最重要」とのことですが、ノバセルにマッチするのはどのような人だと考えていらっしゃいますか?
「プロダクトを愛せる人」です。プロダクト愛にも2パターンあって、まずはノバセルのドメインが好きな人。そもそもTVCMが好き、その分析が好き、マーケティングサービスが好き、というドメインが好きなタイプですね。もう一つは、プロダクトを作ったり、プロダクトとその先にいらっしゃる顧客と向き合うことが好き、というタイプ。どちらのタイプでもいいですが、どちらでもない人は難しい。例えば、コードを書くことやモノづくりが好きだったとしても、プロダクトそのものを愛せない人はノバセルには合わないかなと思います。
お互いの得意なことを活かして、弱点はサポートし合うチームづくりを目指しているので、チームで仕事ができることは大前提ですね。チームで仕事をする中で、お互いのポジティブな部分に目を向けてお互いを高め合える、その上でネガティブなところはあまり気にしない、というコミュニケーションにしていきたいと思っているので、そういったチームワークができるかどうかも重視しています。
個が活きるチームを目指していらっしゃるんですね。
どれだけスキルがあっても、個人でできることにはすぐに限界がきます。だからこそ、個で何かを成し遂げるのではなく、チームで何かを実現させていこうという意志が強い人がいいですね。その延長線上にあるのが「きく(訊く・聴く)コミュニケーション」。実は、シニアエンジニアは、わからないことを周りにどんどん訊く一方、ジュニアエンジニアの方がわからないことを抱え込んで自分で調べてどうにかしようとする。訊くことって非常にスキルフルなことなんですよ。だからノバセルに限らずラクスル全体で訊くことを大事にしていて、質問が出れば、まずは質問をしたことを評価するし、それに対して皆で議論したり検討したりする。そういうことを通して心理的安全性を確保し、お互いにナレッジを溜め合えるような組織やカルチャーを作っていきたいです。
組織づくりに取り組む中で、戸辺さんが心がけていることについて教えてください。
組織づくりに関しては、育成や教育に対して世間でも度々話題になりますが、本当にそこに時間とお金をかけているか、時間をかけていることが評価されたり正当性を持っていたりするか、というところは気になっています。例えば私は、多い時には週40時間のうち、30時間は採用と1on1に時間を使っています。CTOの時間の使い方として、一週間の3/4を採用コミュニケーションやメンバー育成といったマネジメントに時間をかけていいのかという議論はあると思いますが、ノバセルのエンジニア組織がうまくいっていると感じてもらえているとすると、この時間の使い方で今の状態が作り出せているんです。
昔は私も「CTOもコードを書け」と思っていたし、自分自身、コードを書くのが好きでエンジニアになりました。しかし、今になって思うのは、私自身もそれなりのレベルでコードを書けますが、それでも自分でコードを書く限りでは、一番できる他のエンジニアと同程度か場合によってはそれに劣るくらいのパフォーマンスしか発揮できません。だからこそ、現在はCTOにしかできない仕事や中長期の未来に向けた時間の使い方をするようにマインドが変わりました。1on1はその効果をはっきり理解していない人にとっては軽視されがちで、私も軽視していた時期があるのですが、この仕事こそCTOとして自分のユニーク性を発揮できると気付いてからは、1on1の時間を確保し続けることを心がけています。
時間の使い方に対するマインドが変わったきっかけはありましたか?
マネジメントと向き合う中で、“メンバーとの相互理解”がとにかく重要だということを理解しました。マネージャーとしての究極の仕事は、メンバーをプロモーションさせること。プロモーション「させる」ことだけでなく、「させない」ことを決めるにしても、メンバーと向き合い、知る必要があります。メンバーから見たら「このマネージャーは自分のことを知ってくれている、見てくれている」というのが非常に大事。この信頼関係をしっかり築くために一番効果的で良い時間の使い方が1on1だと思っています。
少し話は逸れるかも知れませんが、育成やマネジメントに関するトレンドにフォーカスしたアンテナの張り方はしていませんが、もう少し広い視点で「群」としての思考の変化は敏感にキャッチしたいと思っています。組織のダイバーシティへの提言などは積極的に行っています。世間の動きに対しては採用・育成といった領域に限らず、敏感に先を読んで対応できるようにしていきたいですね。
組織に世の中の動きに対する感度が高い人が一人でもいるかいないかで、その組織の未来はだいぶ違うと思いますが、そういう点を意識されているんですか?
そうですね。私も意識していますし、ラクスルの役員は皆、世の中の変化やトレンドへの感度が非常に高いです。特にラクスルCEOの松本さんの感度の高さ、未来を見据える姿からは刺激を受けており、私もノバセルやエンジニア組織の視座を上げていければと動いています。
世間に対するノバセルエンジニア組織に対するプレゼンスも上げて行きたいですし、新卒の採用・育成にも力を入れていきます。
採用では「コーチャブルか否か」という点は新卒でも中途でも見ているポイントです。ポテンシャルと育成した場合の吸収力がどのくらいあるかは大きな判断軸です。既存の能力は高くても、吸収力が低そうという場合は「コーチャブルではない=成長促進は難しいので、採用しない」という判断になります。特に新卒採用においては、2年で一人前に育て上げることを目指し過去に努力して何かを身につけている経験や、エンジニアとしてのスキルや技術面に対してモチベーションを持って取り組める方を「コーチャブル」であると判断し評価しています。2年で一人前になるサイクルが回せるようになると組織のケイパビリティの上がり方も大きく、採用コストも削減できます。ノバセルで求める“一人前”のレベルに2年で達成させることは結構なストレッチではありますが、きちんと実現できるように体制構築を進めています。
そのような評価基準を見事クリアし、ノバセルに参画してくれたメンバーに期待することや普段のコミュニケーションの中でよく伝えていることはありますか?
マネジメントに期待するのは、「育成」「規律を持った統制」「高い視座」。マネジメントに限らずエンジニアには常々「視座を上げよう」と伝えています。
メンバーにはマネージャーの視座を、マネージャーには役員の視座を、役員にはCEOないしは社会貢献の視座を、といったように、自分が属しているところより一つ上の視座を持つようにと言っているものの、口頭で伝えられたことをすぐに身につけて実践できるかというとなかなか難しいですよね。また、実践にあたっていくつかトレードオフが発生する場合、どのような意思決定ができるかという点は視座だけではないと思うので、なかなか一筋縄にはいきません。
また、発言しやすいことと、緩い組織というのはまったく別物です。コミュニケーションが取りやすい組織にはしたいですが、規律に対して緩い組織にはしたくない。その点はメリハリを持ったコミュニケーションをしますし、カルチャーを維持するためには、心理的安全性と緩さを履き違えずに、しっかりと規律を守っていくことが必要だと思っています。
順調に採用・組織づくりができているように見えますが、今後どのような点に注力していきたいとお考えですか?
引き続き、尖った人材の採用を進めて、組織の独自性を高めていければと思っています。そうすることで、独自性や技術的な優位性のあるプロダクトを、組織としてしっかりと作れる力を向上させていければと思っています。理想の状態が山登りの10合目だとしたら、今はまだ2合目か3合目。やりがいのある環境です。
最後に、これからノバセルにジョインしていただく方に期待することや求めることを教えてください。
「自分にしかできない何か」を見せてほしいです。とはいえ、“ある分野の日本一”とかそういう難しいことではなく、考え方のユニーク性や、「自分だったらこういうことをやる」という意見や意志で構いません。組織や思考、バックグラウンドのダイバーシティも進めていきたいので、その人にしかできない思考などを組織に入れていって、チームや周りに良い影響をもたらせる人にご入社いただけると嬉しいですね。