【イベントレポート】Findy主催「アーキテクチャを突き詰める Online Conference」に登壇しました
5月22日、Findy株式会社主催のイベント「アーキテクチャを突き詰める Online Conference」に、ラクスル株式会社CTO竹内とラクスル事業本部CTO岸野がスピーカーとして登壇しました。
お話ししたテーマは「RAKSULに見るアーキテクチャの変遷〜複数サービス展開への道〜」。印刷EC「ラクスル」のアーキテクチャ変遷や、複数サービスを展開する中での全体像、そして事業戦略とのアラインについてご紹介しました。
本記事では、その内容をレポートします!
登壇者
ラクスル株式会社 CTO 竹内 俊治
ラクスル株式会社 ラクスル事業本部CTO 岸野 友輔
※本記事はRAKSUL TechBlogからの転載です。
RAKSULについて
竹内:「RAKSUL」と聞くと“印刷”のイメージが非常に強いと思いますが、私たちは「産業構造の変革者」であると自己定義をしています。印刷事業を主軸にしつつ、ノバセルや、ハコベル、ジョーシスなど他産業の関係会社も含め、グループ全体として様々な産業を変革していくための多様な事業を展開しているからです。
IR資料にも成長ドライバーとして記載がありますが、RAKSULでは下記の方針を打ち出しており、CTOとしてこれらを技術的に実現していく所存です。
- 新規事業の立ち上げを継続
- M&Aの推進
- 諸事業間でシナジーを生む
事業戦略とシステムとのアラインの難しさ
竹内:とは言え事業戦略の実現となると、簡単ではないのが現実です。
例えば、M&Aを行うとすると、完全に異なるソフトウェアスタックをグループ内に取り込むことになります。そのためには取り込む側に柔軟性が必要です。しかし「その柔軟性はシステムの中にあるか?」という現実との戦いが発生します。また他にも、既存案件で余裕がなく新規対応の時間が取れない状況や、財務全体の統合について、テック側のガバナンス問題…など多くの不安や疑問符が発生することになります。
RAKSULもこれまで何度も頭を抱えてきました。そこで、まずは創業から今までにどのようなアークテクチャ変遷をたどってきたのか、印刷EC「ラクスル」を事例にお伝えしたいと思います。
ラクスル事業のサービス・アーキテクチャの変遷
1サービス・1プロダクト
岸野:ラクスル事業の主軸である印刷EC「ラクスル」は、2013年にリリースしました。10年以上にわたる運営の中で、少しずつアーキテクチャの形を変えながら稼働している根幹のシステムです。
複数サービス・1プロダクト
岸野:印刷EC「ラクスル」を作った当時は単一サービスだったこともあり、簡単でシンプルなシステムでした。その後、2015年には既存の印刷ECサイトを拡張する形で、集客支援サービスを開始しました。
コンテキストが大きく異なる商品を既存のシステム・同一のオペレーションシステムで無理矢理寄せて進めていくことで、徐々に開発が苦しくなっていったというのが実態でした。
マイクロサービス化へ
岸野:そこで、マイクロサービス化を2つのレギュレーションで推進しました。
まず1つ目は、将来的なシステム拡張性を見越した機能の切り出しです。例えば認証機能や決済機能など、将来的に複数のサービスで展開されていく見込みがある機能から切り出しを行いました。そして2つ目は、既存システムの課題を解決するために、新しい設備の構築・移行です。
この時の反省点は、2つを十分な検討や準備をせずに進めてしまったことです。移行が完全ではない状態で進んでしまったことで、結果としてシステムの切り出しがスムーズでなかったり、データベースの一部が共有されてしまう事象が起こりました。
複数サービス・複数プロダクト
岸野:この状況に加えて、事業サイドから「ノベルティ」や「アパレル」など、既存の印刷サービスのコンテクストから離れたサービスやシステム開発の要望が上がってきました。
ラクスルの商品は、非常にカスタマイズ性が高い商品が多いのです。例えば印刷サービスで考えると、紙の厚さ・サイズ、質感…というように複数のパラメーターの中から商材を選んでいきます。ノベルティも同様に複数のグッズがあり、その中に各カスタマイズをご用意しています。
そのため、当初はこれまで同様、既存システムを拡張していく方針でしたが拡張の限界を迎えていたため、新しいサービスを別プロダクトとして構築していくことを決めました。
この判断は功を奏し、新規プロダクトの立ち上げ速度や改善速度が大きく向上する結果になったことから、現在はこの進め方をスタンダードとしています。
M&A時のシステム側の難しさ
岸野:さらに、「ダンボールワン」・「ハンコヤドットコム」のグループインが続きます。
もともとM&Aを想定したシステムにはなっていない中で、顧客IDや決済の連携が求められることになり、ここでも多くの不安がよぎることになりました。
アーキテクチャの目指す姿
岸野:M&Aや新規事業の立ち上げはこれからも続いていくため、各事業間のシナジー創出の土台として、基盤システムをしっかり独立させていくことが重要です。まだ道半ばですが、今後も様々な事業戦略に耐えうる強固な基盤づくりを進めていきます。
事業戦略と足並みを揃えたアーキテクチャ
竹内:ここからは、後追いでアーキテクチャを考えていくのではなく、事業戦略と歩調を合わせて進めていくことについてお話しします。
複数サービスに関わったり、単一事業を複数事業に展開していくフェーズを経験したりしたことがある方は身に染みて感じていることだと思いますが、往々にして大きなシステム投資や時間がかかる移行は「実施すべき」ものの「今やるべきことなのか?」と押し戻されることが多いことが実情です。RAKSULもそのような議論を繰り返し行ってきました。
事業戦略と矛盾はしていないが、結局システム設計が後追いになってしまう……そのような状況は変えていく必要があります。そんな中で、我々は「経営との繋ぎ合わせ」を最初に考えるようにしています。
経営会議や取締役会で「技術戦略や技術競争力は何か?」という話はよく出てくると思いますが、まさに「経営とテックのつなぎ合わせ」が重要です。その1つとして、技術戦略を考える際にRAKSULに必要な技術競争力をきちんと定義することから始めました。
技術競争力の定義
竹内:定義の1つ目は、バーティカルな競争力です。複数の事業一つひとつが成長し続けていく環境をどのように整備できるか。例えば、先ほどの話で言うと、基盤を切り出すことによってどういう成長・効率化を期待するかですね。
2つ目はホリゾンタルな競争力です。ラクスルは顧客基盤・決済基盤を切り出すことによって、他サービスの立ち上げを大きく加速させました。このように「共有アセットを使うことによってプロダクト開発を加速する」というのが、ホリゾンタルな技術競争力だと因数分解しています。
既存の印刷事業や広告事業は共通した基盤にどう乗っていくか、そして新規事業領域も、決済基盤・顧客基盤を共通できるようなドメインで考えていこうとしています。
このように設定していくと、自ずと責任分界点も明確になります。
例えば共通アセットとのインターフェースはしっかりと切り、その乗っている事業側は、技術スタックの選定含め、開発チームの主体性に任せたいという考えに至ります。
そして基盤部分は、各サービスがしっかりと事業展開でき、IRにあるM&Aや新規事業などの大きな事業戦略を確実に遂行できるようなプラットフォームを作っていくというところが責任分界点です。
ただ、これは整理をし終わった後の姿で、最終的に基盤を切り出すというのはまだ途上です。さらに、M&Aによって全く異なる考え方・ソフトウェアスタックが混ざることによって、意図しない技術負債の発生もあるだろうと思います。
技術的負債の定義
竹内:先の技術競争力を因数分解したのと同様に「RAKSULにとっての技術的負債とは何か」を因数分解しましたので、その考え方をフレームとして展開いたします。
開発生産性が悪い、メンテナンス性が低い、古いソフトウェアスタックを使っていてセキュリティーに問題がある、スケーラビリティに問題がある…などよくあるわかりやすい技術的な負債です。この部分は“確かな負債”としてきちんとコントロールしていく必要があります。
そしてそれと同時に、複数事業展開をしていく中で、プラットフォームのコントロールや価値提供も重要です。
すでに顧客基盤を持っている会社をM&Aする場合もあります。その際は、シナジーを出すためには、顧客基盤の統合や効果的な活用を進めM&Aの効率を上げていくことなど、技術負債のコントロールと絡めて経営層の中で話をしています。
現在RAKSULでは、M&Aで新たにジョインした会社が独自の顧客基盤や決済基盤を持っている場合、「まずこの部分の統合を図り、その上で技術負債はグループテックとしてきちんとサポートしていきましょう」といった考えを持って、プラットフォーム・組織・サポートの三方面からアプローチしていく体制を鋭意構築中です!
おわりに
6月18日(火)に、本イベントの続編(オフラインLT形式)が決定しました!
続編では「リアーキテクチャにおけるアンチパターンへの向き合い方と次なる挑戦」をテーマにラクスル目黒オフィスで開催。
6名の登壇者が取り組まれてきたリアーキテクチャ全般について、そして次に向けてどうしていくか?を学べるLTイベントです。
ぜひお気軽にお越しください!
開催日:2024年6月18日(火)19:00-21:30
場所 :RAKSULオフィス(目黒駅 徒歩5分)
東京都品川区上大崎2-24-9 アイケイビル1F
参加費:無料
内容 :LTイベント(6名登壇)・懇親会
詳細・申込:https://findy.connpass.com/event/319637/
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