成功するまでやれば失敗じゃない。仕組みを変える、壮大なチャレンジを続けていってほしい
ラクスルを卒業したOB/OGたちは、ラクスルで何を学び、今にどう生かしているのでしょう。ラクスルのマーケティング部長を務めたのち、株式会社ペライチのCEOに就任した安井一浩さんに話を聞きました。
株式会社ペライチ 代表取締役CEO
安井一浩
Kunihiro Yasui
東京工業大学土木大学院卒業後、新卒でリクルートへ入社。広告・WEB制作に携わり、『ケイコとマナブ.net』のUI/UXリニューアルを担当。2014年12月、ラクスル株式会社に入社。マーケティング部長を務め、同社の成長を支える。2020年9月よりCOOとしてフルコミットで株式会社ペライチに出向。2022年6月にCEO就任。「テクノロジーをすべての人が使える世界に」というビジョンの実現に向け、事業拡大を目指している。
2時間の初回面接で転職を決意。事業成長の可能性を感じた
――ラクスルとの出会いを教えてください。
2014年の夏に、代表の松本さんからスカウトメールをいただいたのがきっかけでした。
当時はリクルートの『ケイコとマナブ.net』でWebデザインを担当し、UI/UXのリニューアルを手掛けていました。漠然と、何か新しいことしたいな…と思っていたときにスカウトが届いたので、「ちょっと話を聞いてみるか」と面接に行くことにしたんです。
松本さんとの面接で話が盛り上がり、2時間があっという間に過ぎていきました。次の面接が決まっていない段階で、リクルートには「辞めます」と言っていました。
――それだけすぐにラクスルへの転職を決めた理由は何でしたか。
さまざまなことができそうだな、という可能性を感じたからです。
松本さんは「印刷だけではなく集客支援事業をやりたい」と、今後手掛けたいことを次々と話していました。
面接に行った時点では、転職する気はほとんどなかったのですが、もともと紙の広告制作に携わっていたので印刷事業との親和性を感じてましたし、面接の中で松本さんが「今動いて、うちに来るべきだ」と強く言い切ってくれたため、背中を押されました。
――参画当初のラクスルの状況、環境について教えてください。
当時は印刷事業しか展開しておらず、週2回のメルマガ配信が最初の担務でした。しかし、それだけでは物足りなく感じたため、ABテストを試してみたり、データ分析をしてみたりと、自分から動き回っていましたね。
入社前の段階で、松本さんには「成果は必ず出すので、自由にやらせてほしい」と宣言していました。私は、前職のころから「これをやったらいいんじゃないか」と思うことを自発的に行動に移していました。せっかく、規模の小さいベンチャーに行くのだから、これまで以上に自由にやらせてもらえなければ意味がないと思っていたんです。
課題を設定し解決する。その積み重ねが成果につながった
――ポスティングや新聞折り込みなど、集客支援事業で売上を大きく伸ばされていました。役割はどのように決まっていったのでしょうか。
私はいつも「社内のお助けマン」みたいな存在でした。事業がうまくいかなくなったり、担当者が異動になって人がいなくなったりというピンチのタイミングで「安井なら何とかしてくれる」と仕事の依頼が舞い込んできていました。決まった型はなかったように思います。
集客支援事業も、私が担当する前は「事業への注力を一旦外そうか」と経営会議で議題に上がるほどの状況だったようです。ただ、どちらか判断をする前に「先ず安井にやらせてみよう」とバトンが回ってきたのです。集客支援事業が上に上がるしかない状況だったからこそ、何でも挑戦できるだろうと感じましたね。
――結果として、担当後1年6か月で売上を10倍規模まで成長させています。その秘訣とは何ですか。
数字だけ示すと輝かしいように見えるのですが、やっていたことはとても地道なものです。当初、ポスティングの対応エリアが関東・関西エリアのみだったところ、全国区にサービスを拡大していきました。A4しか対応していなかったチラシサイズのバリエーションも増やし、各地域のポスティング会社の料金を全国対応のため、各市町村の何十万行に渡るエクセルを委託先と埋めることもしました。
前例のない領域だったので、成功のためのマニュアルはなく、言い換えると“失敗”もない状態でした。成功するまでやり続ければ失敗はないなと思えたので、自由に進めやすい環境でしたね。
――前例がなく、経験がないことをやり遂げられたのはなぜでしょう。
自分に専門性がなかったからでしょうか。自論ですが、専門性はときに足かせになると思っています。これを経験してきたから、スキルがあるから…と過去の実績にとらわれることで、逆に「経験がない領域は難しい」と考えてしまいかねません。自分の仕事の範囲を狭めることにつながってしまいます。
私はリクルートに在籍していたときから、コピーライターやWebデザイン、人材マネジメントなど一貫性のないテーマで仕事をしてきました。ラクスルに入ってからも同様です。組織に必要なポジション、任される分野が変化するたびに「何が課題でどのように解決すべきか」ということにフォーカスしてきました。そのため、専門分野では、エンジニア領域はエンジニアにお願いし、ビジネス領域では必要な人材を自ら採用していました。
どんな仕事も、「課題を設定して解決する」ことの繰り返しです。任される分野が異なっても、そこは共通しています。集客支援のあとはデザインを担当したり、マーケティングを担ったりしてきましたが、どこに行っても、一つひとつの課題に向き合う姿勢が大事なのだと思います。
――ラクスルでの誇れる経験を教えてください。
採用したメンバーが活躍しているということですね。
ラクスルでは、各部門でチームに必要な人材を、現場が自分たちで面接し採用までおこないます。採用した中には、今もラクスルで事業を伸ばしているメンバーもいれば、すでに卒業し社外で活躍しているメンバーもいます。採用を通じて、何らかの成長や変化のきっかけをもたらすことができたとしたら嬉しいですし、彼らの活躍によって、ラクスルに今も間接的に貢献できているかなと思います。
――ラクスルで得られた力、今につながる考え方は何ですか。
「諦めたときが失敗であって、成功するまでやれば失敗ではない」という考え方はずっと大事にしています。
挑戦することはすべてが“過程”であってゴールではない。そう思えるから、どんな分野で仕事を任されても、いつも粛々と進められたのだと思います。
既存サービスにとって代わるものを生み出す――。そんな野心に期待したい
――2020年9月から株式会社ペライチにCOOとして出向。ペライチの事業概要と、安井さんが携わることになった経緯について教えてください。
ペライチは「世界で一番カンタンなホームページ制作」を提供するSasSサービスです。ITリテラシーや資金面で課題を抱える中小企業でも、自前でホームページを作り集客できる仕組みを作ろうと、2014年に創業者・橋田一秀が立ち上げました。
ラクスルCFOの永見さんと橋田につながりがあったことや、印刷・集客支援事業とホームページ制作の連携を進める観点から、2020年にラクスルが出資を決めています。
ただ、当時のペライチは、組織設計も未整備で社内は混沌としていました。株主として組織づくりを進める必要があり、ビジョンの策定から、人事制度の設計、採用活動に至るまで、ほとんどゼロから作り上げるべき状況でした。そこで、ラクスルで事業づくりからマネジメントまで、幅広く経験していた私に声がかかったのです。
ちょうど「何か別のことをやりたい」と思っていたタイミングだったので、迷いなく行くことにしました。
――新たなチャレンジで苦労したこと、大変だったことは何ですか。
またしても前例も経験もないことの繰り返しでしたが、ビジョン策定や制度設計などは、ラクスルで経営陣が議論したりしているのを常に横で見ていましたし、どんなプロセスを踏むべきか見聞きしていたことが活きました。分からないことがあれば、経営陣に「あのときラクスルではどうやっていたの?」と聞いて回りました。
大変だったことは、労務やファイナンスなど専門外のところまで網羅的に見なければいけなかったことです。各領域の専門家と連携する中で、こちらにもある程度の知識がなければ、彼らの提案や意見を評価できません。勉強すべきことの幅広さはCOOならではだったと思います。
――2022年6月よりラクスルからの出向を終了し、ペライチCEOに就任されました。現状の課題と、これから実現したいことはありますか。
ラクスルを出たからには、また新しいことに挑戦したいと思っています。
一つはグローバル展開です。ラクスルもグローバルを視野に成長を続けていますが、印刷などリアルなものの仕入れが必要な領域では、スピーディーにグローバル展開を進めるのが難しいという課題がある一方で、ペライチは、ホームページ制作というソフトウェア事業なので、グローバルへの規模を拡大していきやすいと考えています。今後は、従業員数を増やしながらも、一人あたりの売上が大きい会社を作っていきたいです。
――今後、ラクスルに期待することはありますか。ラクスル在籍メンバー、これからラクスルに入ってくるメンバーへのメッセージをお願いします。
ラクスルはずっと成長し続けなければいけない会社だと考えています。「安定した会社に入った」と思わずに、もっと前例のないチャレンジをし続けてほしいですね。
「仕組みを変えれば、世界はもっと良くなる」という壮大なビジョンがあるのだから、既存の仕組みの中で微修正をするのでなく、既存のサービスを駆逐するような新たな事業をさらに考えていったらいいと思います。
私はこれまで、「どのような肩書きか」ではなく「何をやるか」にフォーカスしてきました。さらには“会社に所属”している感覚もあまりなく、面白いことができそうだからラクスルの環境に身を置いていました。仕事を楽しむために会社を選んでいました。
これから入るメンバーには「自分がラクスルの経営陣にとってかわって、事業を手掛けるぞ」くらいの野心を持って入ってみてほしいです。
成果の出し方は自由ですし、プロセスの踏み方も自分次第です。そのような働き方ができ、挑戦を後押ししてくれるのが、ラクスルで働く最大の魅力だと思います。