新規プロダクトやサービスを立ち上げたり、企業とのアライアンスを構築したりと、0から事業開発を行い、ビジネスを推進していく旗振り役がBizDevという職務です。
DX時代においてオープンイノベーションや共創、エコシステムの構築などが求められるなか、自社のみならず産業全体の最適化や課題解決に向けて取り組むことが重要になっています。
その一端を担う屋台骨こそBizDevのポジションであり、事業開発職のやりがいとも言えるでしょう。

去る9月16日には、ラクスルとキャディの事業開発を担うメンバーが集い、自身の経験をもとにリアルなBizDev論を語るトークイベントを行いました。
キャディ株式会社 装置事業部 事業部長の幸松 大喜氏、同SCM本部 リーダー 小池 智也氏、ラクスルからはラクスル事業本部 新規事業開発 部長 丸山 諒、同特注プラットフォーム事業部 部長 茶谷 祐司が登壇し、事業開発のリアルな体験談をもとに議論を深める場となりました。
BizDevは「事業の非連続な成長に貢献する」ことが大切
事業開発といっても、その担当する領域は会社規模や事業内容によって大きく異なります。
ただBizDev(=Business Development)という言葉からわかるように、ビジネスを伸ばすことにコミットするというのはスタートアップであれ大企業であれ、さほど変わらないでしょう。
事業開発の役割についてラクスルの茶谷は「担当領域の事業成長に必要なことは何でもやること」だと述べます。

「事業を『磨く』と事業を『伸ばす』の繰り返しで、ビジネスを成長させていくのが事業開発の役割だと考えています。当社で言えば、まずは顧客に選ばれる商品にするためにSEM強化(SEO対策、リスティング広告など)、クロスセル促進(サイト導線設計やメルマガ設計など)を行い、サイトへの流入を増やすことで事業を伸ばす。次に、サイト流入が増えたことで見えた課題から、より商品価値を高めるために原価削減(パートナー企業と新工場の立ち上げ)や新商品販売(新規アライアンス締結)に取り組み、順じてマーケティング投資を行うことで事業拡大に努めてきました。ラクスルのプラットフォームを構築することで、産業構造を製販一体から製販分離へと変革し、非連続な事業価値にフルコミットすることこそ、事業開発の主たる責務だと捉えています」
また、ラクスルで新規事業開発に携わる丸山は、BizDevの定義をこう話しました。
「BizDevという職種は、その人がいなければ生まれなかった価値を作ること。そして、何か社会にインパクトが生まれるときに中心にいる人だと認識しています。それは0→1の立ち上げフェーズでも、10→100のグロースフェーズでも問わず、成り行きではない非連続に伸びるイベントを仕掛けている人をBizDevと言うのではないでしょうか。」
創業当初は顧客ニーズに応えるために何でもやった

キャディは、金属加工品の受発注プラットフォームとして、マッチングだけではくファブレスメーカーとして事業を展開しています。
産業機械、装置メーカー、プラントメーカーに特化し、“ものづくりのAmazon”を目指す同社にとって、事業開発はどのように行ってきたのでしょうか。
創業メンバーとして関わってきた装置事業部 事業部長の幸松氏は「とにかくお客様のニーズに応えるために、できることはなんでもやってきた」と当時を顧みました。
「サプライパートナー、オペレーション、原価計算ロジックからエンタープライズ顧客の立ち上げまで、ジョインから4年間事業拡大に奔走してきました。そのなかで、ようやくお客様の価値が見えてきた実感があります。当初はニーズありきでやれることは全てチャレンジし、数多くのアクションの中から『これがお客様のインサイトに刺さる』という糸口を見出してきたのです。これが事業開発していく上で意識してきたことでした」
仮説通りいかないのは当たり前。顧客価値をいかに見つけ出せるかが重要
この日モデレーターも務めた幸松氏は、トークセッションで3つのお題について触れることを話しました。
まず、最初のお題は「事業開発をする際のポイント」です。
企画の立て方や方法論などはあれど、現場を経験してきた登壇者だからこそ言える事業開発の勘所について話し合うテーマとなりました。
2021年2月にキャディへジョインし、現在はSCM本部のリーダーを務める小池氏は「失敗を恐れずにPDCAサイクルを高速で回すこと」がポイントだと言います。
「私はこれまで、自分の仮説が外れ、失敗した経験を多く積んできました。苦難を味わい、厳しい状況を幾多も乗り越えてきたわかったのは、『仮説は概して外れる』ということ。まずは仮説通りにいかないことを前提にビジネスを作ってみる。そこでやってみて初めてわかることがあるので、次に活かしていく。これが事業開発を行う上で必要になるマインドセットなのではないでしょうか」
また丸山は、ある程度の仮説を持ってして顧客へヒアリングすると「実はこんな使い方や思いもしなかった課題感が見えることがあります。お客様に接して初めて得られる気づきは、事業開発を行う上で肝になると思っています」と説明しました。
茶谷も「お客様にとって、どんな価値を見出せるかが大事」とし、次のように話します。
「ブレストやディスカッションなど、事業開発をしていると色々なアイデアが生まれてきます。でも、あくまで自社内で浮かんだものであり、そこに固執してしまえばプロダクトアウトの発想になってしまう。見失ってはいけないのは、『お客様にとって本質的な価値は何か』ということです。お客様にヒアリングし、自分たちで提供できる価値を見極めていくことが、事業開発をする上で重要なポイントだと思います」
各社が考えるBizDevの醍醐味とは?
2つ目のお題は「事業開発の面白さ、楽しさ」です。
何もないところから新しい価値を生み出し、世の中へ広めていく。
クリエイティブな仕事である一方、ハードシングスはつきもの。
思い通りにならないことや、意図せぬ事態が生じることも多いなか、事業開発の面白さ、楽しさはどこにあるのでしょうか。
幸松氏は、創業間もない頃の苦労やブレイクスルーのきっかけになった経緯をもとに事業開発の醍醐味を語りました。
「今は会社規模も大きくなり、ビジネスも軌道に乗ってきていますが、やってもやってもお客様がついてこない時期も経験しました。ビジネスモデルが悪いのか。あるいは自分のやり方が悪いのか。どうしていいかわからず、暗中模索状態になってしまったこともあります。サービスの特性として一品一様の加工品を扱っているゆえ、当初は加工会社と発注者のマッチングに全振りしていたのですが、品質が伴わずに伸び悩んでいました」
リスクテイクとのバランスを鑑みながら色々と試行錯誤を繰り返すうちに「集約(アグリゲーション)の価値」に気づき、ビジネス成長の道筋が見えたと続けます。
「分散されていた発注を集約し、パートナーである加工会社に仕事をふるようにしたことで、事業が前進していきました。『どんな価値を作れば突破口になるのか』という視点で、最適解を見つけ出すのが事業開発の面白いところでもあり、難しいところだと考えています」
小池氏は、サプライサイドの事業開発を行ってきた身として「事業者側と現場とで、お互いの知見を共有し合い、少しずつ情報格差を埋めていくのが必要だと思います。何度もトライ&エラーを繰り返すなかで現場が変わっていき、改善に向かう兆しが見えてきたときの達成感は事業開発の楽しさでもあり、やりがいを感じるところでもあります」と語りました。
一方、茶谷は「事業開発という職種柄、部署を横断したコミュニケーションや外部パートナーとの対話を通じて、さまざまな学びを得られるのが事業開発の面白いところ」と話します。
「社内外問わず、いろいろな関係者と関わる機会が多くなるので、自分の中で新しい気づきや発見があるのが面白いと感じています。ときに、自分の常識が覆されることもあるので、そこから得た学びを事業開発に活かしていくのが良い循環になるのではないでしょうか」
俯瞰的に事業を捉え、当事者意識を持って取り組む姿勢が求められる
最後3つ目のお題は「事業開発に向いている特性、共通点」。
たとえ業界知識がない状態でもキャッチアップし、事業開発に役立てる力や、立ちはだかる困難を乗り越えて成長につなげるためのマインドセットなど、どのような特性を持ち合わせていればいいのでしょうか。
丸山は、新規事業開発の部長としての観点から「事業開発にはオーナーシップが必要不可欠」とし、このように説明します。
「常に誰かの下で業務を行うままでは、なかなかオーナーシップは芽生えません。たとえ小さいカテゴリー領域でも矢面に立って、周囲を巻き込みながら仕事をしていく気構えが重要です。事業インパクトの大小問わず、責任持ってやりきってもらうことで、当事者意識が備わるようになります。もちろん、何か問題が起きたときのために上長は進捗を気に掛けておく必要がありますが、オーナーシップを持った仕事の経験こそ、事業開発に活きてくるでしょう」
茶谷も、ラクスルで活躍している人の共通点として「オーナーシップを発揮している」ことを挙げます。
「責任感を持って仕事に取り組み、紆余曲折を経験しながらも最終的にはうまくまとめ上げられる力が、事業開発には求められるでしょう。企画を考える力だけでなく、現場に足を運んで泥臭くやり切る行動力や、厳しい状況に追い込まれても乗り越えらえる逆境力(レジリエンス)なども必要になります。加えて、キャッチアップ能力があれば事業開発に十分に向いていると思います」
小池氏は事業開発に向いている特性、共通点について次の3つを掲げました。
「1つ目は『全体感を掴み、俯瞰で見れるか』。長いバリューチェーンのなかで、ミクロな視点ではなく全体感を創造しながら取り組めるかが重要です。事業全体を把握し、今やっていることがバリューチェーンのどの部分の改善につながっているかを理解する力が求められます。次に『ステークホルダーへのリスペクト』も大切。得てして、何ができていないのかを自社視点で解決しようとしがち。顧客視点に立ち、顧客の気持ちを汲む姿勢が大事になってくるでしょう。そして3つ目は『炎上したことがあるか』。言い換えると、修羅場をくぐったことがあるかということです。苦難を経験していれば、しなくてもいいミスや失敗を回避できます。この3つが、事業開発において持つべき特性だと考えています」
ラクスルとキャディの両者でBizDevキャリアを歩んできた登壇者らのリアルな意見は、事業開発職を行う上で、非常に参考となったのではないでしょうか。
今後もキャリアの指針を考える上で有益になるセッションを企画していきますので、ぜひ参加いただければと思います。
イベント詳細は下記URLに随時アップしていきます。
ラクスルのBizDevについてはこちら
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