
インド支社を“グローバル展開のハブ”に ——ラクスルがインド進出で目指すものとは?
ラクスルは、ハイテクノロジー産業の中心地・バンガロールに企業推進拠点となるオフィスを開設し、海外2拠点目となるインドでの展開をスタートさせました。これまで培ってきたノウハウをグローバルへと飛躍させていくだけでなく、日本とインド、両拠点の強みを結集し、新たな創造性を解き放っていきます。今回は、そんなインド新オフィスの責任者に就任したサンジェイ・ラジャセカールさん、そして取締役CTOの泉雄介さんに話を聞きました。泉さんは、初年度のエグゼクティブスポンサーとして、このインドの新オフィスを成功させるための重要なパイプラインを務めます。果たして、インドオフィスの誕生によって、ラクスルはどのように変わっていくのでしょうか?
インタビュー対象者

サンジェイ・ラジャセカールさん
RAKSUL INDIA PRIVATE LIMITED 拠点長
過去20年間、インド・米国・カナダ・中国・オーストラリア・ヨーロッパ等のエンジニアチームを組成・構築し、変革をリード。Honeywell, Dell EMC、Nortel Networksといった多国籍企業において培った世界基準のリーダーシップ経験を活かして、当社ではインド拠点の立ち上げと組織拡大を担当。

泉 雄介さん
取締役CTO
CTOとしてラクスルのテクノロジー周りを統括。インド拠点開設に至ってもパイプライン役として拠点探しから採用に到るまで尽力されました。
——ラクスルがグローバルに拠点を拡大しようと考えた理由について、教えてください。
●泉さん
我々は10年ほど前にネット印刷の事業からスタートし、今では物流、広告へと事業を拡大させてきました。CEOである松本さんが創業当時から掲げていたのは、 『仕組みを変えれば、世界はもっと良くなる』というビジョンのような世界を創り上げていくこと。それは、伝統的な産業に、インターネット、データ、ウェブ解析、機械学習などあらゆるテクノロジーを活用することで、新たな分野に参入していこうということです。そんな我々のサービスをあらゆる産業に届けるためには、より多くの優秀なエンジニアたちの力が不可欠です。そして、それこそが我々がグローバルな拠点展開を決めた理由でもありました。
2年ほど前から、日本国内でもエンジニア採用を強化してきました。しかし残念なことに、対象となる人たちの数があまりに少なかった。エンジニアとしての技術力はもちろんのこと、ラクスルのカルチャーにマッチする人材を厳選しようと思うと、日本だけに絞っていては採用が継続できないという課題があったのです。
インドを選んだ理由としてはソフトウェア開発に関して言えば、非常に成熟した国だからです。世界中がシリコンバレーを注視し続ける中、そのシリコンバレーはすでにインドに目を向けています。ならばシリコンバレーに飛び込むのではなく、インドで直接拠点を展開してみようと考えました
——インドのソフトウェアエンジニアの魅力とはなんでしょう?
●サンジェイさん
インドのソフトウェアエンジニアは非常に多才です。彼らは特定の知識や技能・技術、または会社に留まることをしません。製品技術サービスやエンジニアリングサービスの会社で働くにしても、1つの製品開発だけに携わることはありませんし、プロジェクトも3カ月〜半年ごとに変化し続けています。同じようなスパンで会社自体も変わります。可動域がとても広く、自由なんですよ。
インターネットの普及によって、この10年間で世界がとても身近なものになりました。インドは特に、その影響で得られた新たな技術がたくさんありました。インドの人たちにとってはものすごい量の新しい技術が入ってきたため、ほかの国の人たちに比べてそれらに取り組む人も多かった。結果、教育、才能、グローバルコミュニケーションの取りやすさなどが、企業がインドへ進出する後押しをしているのだろうと思います
——ラクスル・インドオフィスの主な目的を教えてください。
●サンジェイさん
第1の目的は、トップクラスのエンジニア人材にとって魅力的な、高水準の技術と目的のある仕事を提供することでしょう。第2は、ラクスルの次のレベルでの成功を目指し、スケールアップさせることです。そして第3は、日本の新興企業が、グローバル化を受け入れて成功しているモデルケースになることです。すでにハーバードビジネスレビューにおいても、ラクスル は伝統的な産業のデジタル化に成功した企業として紹介され、海外でも評価されています。私たちも先駆者でありたいと思っています
——ラクスルのビジョンとミッションにインドオフィスが貢献できることは?
●サンジェイさん
まずは枠にとらわれない発想を持って、インドオフィスでできること、やるべきことを見極めていくことが重要だと考えています。ラクスルとしてはインド進出そのものが新たな試みになると思いますが、インドのIT産業では、何十年も“自分たちにできることは何か”、そしてそのプロジェクトに対して“自分たちがやるべきことは何か”を見極め、形にする作業を行ってきました。ただ優秀な人材を採用するだけでなく、目的意識が高く、ラクスルのミッションに共感する人材に惹きつけ、働き続けてもらう事で貢献していきたいと思っています
——インドオフィスでは、どのようなカルチャーを育てていくのでしょうか?
●泉さん
まず、『チームワーク』について立ち返る必要があるでしょう。今の時代、5人のチームで構成されるソフトウェア会社でも、世界を変えることができます。何百人、何千人もの人が工場で働く必要はないし、世界を変えるようなものを作るために、多大な設備や新たな設備投資をする必要もありません。さまざまなスキルを持つ人たちが集まった、小さなチームがあればいいのです。特にソフトウェアの場合、拡張性が高いので、サービスを作ってインターネット上で公開すれば、30分もしないうちに世界中の人々に見てもらうことができます。小さくても『高いレベルの信頼と結束力を持つ文化』が体現できるチームであれば、全世界がアクセスできる素晴らしい製品を作ることができるのです。私たちはそういうものに投資したいですし、それが私たちの成長の原動力にもなっています

●サンジェイさん
『高いレベルの信頼と結束力を持つ文化』を作っていくには、ここで働き続けたいと心の底から感じてもらう「真の動機づけ」に焦点を当てることが必要だと考えます。「真の動機づけ」を行うにはは、『自律』『習得』『目的』の3要素が必要になると考えます。『自律』とは、エンジニアが仕事を通して多くを学ぶことができ、その結果、彼らが創造するものが枠の外に溢れ出て、可能性を超えることです。『習得』とは、彼らが本当に手にしたい技能を習得させ、会社に貢献してもらった後、ほかの何かに移る機会を与えることです。インドの優秀な人材は、個人の成長と発展を本当に大切にしているので、習得し続ける機会を与えることは非常に有益です。最後の『目的』は、一つ一つの仕事をより大きな目的や会社のミッションと結びつけるということです。私たちはこの3つを促進することで、相互に信頼しあえる文化を作ることができると考えています
——サンジェイさんがラクスルに参画した理由、インドのエンジニアにとってのラクスルの魅力とはなんでしょうか?
●サンジェイさん
まず一つ目は、CEOの松本さんやCTOの泉さんなど、会社のトップリーダーに大きな感銘、そして刺激を受けたことです。彼らには先見の明があり、誠実で、インドに対して非常に高い野心を持っていると感じました。そして二つ目は、トップリーダーとの議論を深めていく中で、この新興企業が急成長しながら成功を収めた理由がわかってきたことです。そして、そこに込められた理念も非常に素晴らしかった。リーダー自らが『仕組みを変えれば、世界はもっと良くなる』というビジョンに沿って従来の産業を変革し、テクノロジーによって人々の生活や世界を改善しているという姿に、大変共感しました。
そしてもうひとつ、最も決め手となったのは、ラクスルのインド進出の仕方がとても新鮮だったことです。これまでインドに進出してきた会社は、まずは小規模で決められたタスクをこなし、そこから徐々にプロジェクトへと発展させ、製品化していく——という、“進化”を前提とした展開が普通でした。ところがラクスルは、最初から多角的なプロジェクトチームを作り、製品づくりに挑もうとしている。海外拠点をオフショアのような立ち位置にせず、最初から非常にインパクトのある製品づくりができる仕事ができるオフィスにしようとしていました。その姿勢に惹かれたのです
——最後にインドオフィスの目指すビジョンを教えてください。
●サンジェイさん
何よりも、優秀なエンジニアメンバーを仲間に迎えることが最優先だと考えます。それができなければ、中長期に事業を大きくすることはできません。次に、先に触れた通り、社員が誇りを持って仕事に取り組めるような企業文化を構築すること。数字をただ追いかけているだけでは、本来ある道筋を見失ってしまいます。エンジニアたちがもっとも関わりたいと思えること、つまりインドにもたらす使命と目的にも、常に焦点を当てるべきです。そして最後は、日々を通して、このビジネスに限りない価値を提供することです。この3つを重要ミッションとして、初期チームを結成していきたいと考えています。

その上で、インドオフィスでは、本社となる日本のラクスル に大きな付加価値を示したいと思っています。インドでは何百万回とやってきたことですが、まずは優秀な人材で構成された初期チームで成果を出す。そこからは徐々にチームも増え、複数のミッションを実行していけるでしょう。中期計画としては、複数の価値を提供し続けるられるようになること。もちろん、うまくいくものもあれば、うまくいかないものもあるでしょうが、調整し、失敗し、学びながら進めていきたい。そして長期的には、インドが本社ラクスルの研究開発ハブになることを想定しているので、その拠点として発展していかなければなりません。松本さんが発信してきた素晴らしいビジョンを、インドの人材でさらに広く浸透させていけたらと思います
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