
良いものを作る人がモノづくりに集中し、それを欲しいと思う人へ適切に届くように。ー 戸辺淳一郎が目指す世界とは

戸辺 淳一郎(とべ・じゅんいちろう)
執行役員 ノバセル事業本部 HoE
ラクスルに入社するまで① ~ 新卒〜起業に至るまで ~
父が起業家だったので自分自身も起業志向があったのですが、やっぱり少しは世の中のことを知ってからのほうがいいかなと考え、大学卒業後の進路としてすぐには起業せず就職を考え始めました。
アルバイト情報誌で見つけたのが、最初に入社したWEB制作会社。そこから大手の通信会社に出向し、コールセンターに配属されました。そこでは問い合わせ対応という本業の合間に、受電内容を可視化し、システムを活用して効率化するようなことをやっていましたね。“みんなの便利ツール”みたいなものをちょこちょこ作っていたことが、今でもナレッジとして残っています。
1年後に元の会社に戻るんですが、当時その制作会社では、ちょっとしたシステムは全て外注していたんです。「そんな高いお金を払って外注するなんてもったいない、中で作ろうよ」と言って内製開発部門を立ち上げることになりました。入社当時は全社で30人ぐらいだったのがどんどん伸び、僕が辞める頃には70人くらいになり、今や上場して3000人もの社員を抱える規模になっています。
振り返ってみると、その会社ではかなり大きな裁量を持たせてくれた一方、会社のビジョン・ミッション、やりたいことそのものには裁量がありませんでした。その会社で知り合った優秀な営業リーダーがサッカー好きで、2人で話しているうちに「これはビジネスにできるのでは」と、自分たちの好きなサッカーで創業することにしました。
当初はフットサルコートの経営をやろうと考えましたが、フットサルコートを持つことは想定以上に難しく、フットサルコートを時間で借り受け、自分たちで集客するイベントによって利ざやを稼ぐビジネスモデルに軌道修正しました。でも今度は、本来やりたかったことは「サッカーを通じて人生を豊かにすること」だったと思い返すようになり……。

サッカーは、練習では監督から色々な指示を与えられますが、試合でまったく同じシチュエーションが起きることはありません。最終的にピッチの中で行動に移せるのは自分だし、色々な場面で決断する習慣が身につけられるスポーツなんです。そこで僕たちは“シンキングサッカースクール”という、ロジカルシンキングや思考を深掘りするようなスクールを立ち上げることにしました。
スクールの生徒たちのカルテ管理システムなどはすべて内製しました。まだブログすらほとんどなかった時代ですが、うちの会社が主催した大会に出た人は翌日、早ければ当日中に大会レポートが写真付きで見られるという特徴的なサービスを提供。スポーツ会社とはいえ、デジタル・テクノロジー領域で解決できることはすごくたくさんあって面白かったです。
でもサッカーの仕事だけでは食べられない時も結構あって、Jリーグの試合分析システムなどの受託開発を受けていました。サッカーというドメイン知識をかなり深いレベルで持ち、かつ難易度の高い開発をするのは恐らく世界で僕しかできなかったと思います。たまたまとはいえ、サッカー×テクノロジーのハイブリッドがかなりユニークな存在だったわけです。そこからリンクして進むことで、会社がいい意味でどんどんサッカー専業になっていきました。
ただ、僕はシステムを作ることにかけては自分自身のバリューを遺憾なく発揮できるものの、コンテンツ作りに対してはバリューを発揮できない。自分で考えたりはできるけれど、手を貸してパフォーマンスを上げるというのが徐々に難しくなっているように感じはじめたので、共同創業者に「この会社でやりたいことをやり切ったし、サッカープレイヤーを増やすことに関しても軌道に乗った。僕はまた次のチャレンジをしたい」と相談し、ネクストステージへと進むことにしました。
ラクスルに入社するまで② ~ 前社 ~
次は制作・開発現場に戻りたいと思っていたので、いちエンジニアとして入社できる会社を探しました。そこで縁があったのがNewsPicksで、入社当時、エンジニアとして7人目ぐらいだったかな。それまで僕がやっていた言語はPHPやPerl、JavaScriptだったのですが、NewsPicksで使っていた言語と一致しない。つまり技術がすべて未経験の38歳を採用した。その点は今でも、よく思い切ったなと思いますね。ポテンシャル採用なんて言える年齢ではないですから(笑)。
NewsPicks及びその親会社であるユーザベースのミッションは「経済情報で、世界を変える」で、同社が発信する経済情報に触れた人たちが、より良い意思決定をすることで社会を良くするという考え方でした。ラクスルのミッションも「仕組みを変えれば、世界はもっと良くなる」ですから共通点も多いですし、どちらも僕にとってすごく興味があってやりたいこと。みんなの意思決定のクオリティーが高くなることで世界全体が良くなるよね、という点で、両社ともすごく共感できるフィロソフィーです。
NewsPicksでは「実名化プロジェクト」や「アカデミア」の立ち上げ、機械学習チームのリーダーエンジニアなどを務めると同時に、VPoEとして採用も担当し、2020年秋に在籍したエンジニアのうち、3分の2は僕の採用チームが採用した人でした。

ラクスルへの入社と感じた課題
しかしNewsPicksで仕事している中で、その理想に向かうには遠回りと感じたり、もっと身をもって世界を良くしている実感が欲しいなと感じはじめました。「自分たちのプロダクトを触っている人の反応が好き」というエンジニアも少なくないと思いますが、僕自身はあまりそう思わない。それよりも、もっと世界が変わってる感触・実感が欲しいんです。
ラクスルは、TX(トランザクション)をよりロジカルに考えたほうがいいだろうというのをまっすぐに導入し、構造を変え、プラットフォームに関わる人が三方よしの仕組みを実現している。実際に世界を変えているぞという実感があるだろうなと、非常に魅力的に感じました。その根底には、エンドユーザーの顔が見えやすいという理由もあったと思います。
入社時点で最も課題だと感じたのは、ノバセルが「マーケティングを民主化する」というビジョンを掲げ、それを推進するようなサービスを提供しているはずなのに、データドリブンなマーケティングに対する知見や、データを正しく扱うためのプラットフォームが社内にはまだまだ不十分だという点でした。
ですから、まずはデータをメンバー全員が扱えるようプラットフォームを整えたいと考えています。プラットフォームが整えば、職種関係なく全員がデータドリブンな意思決定ができますから。逆に言えば、全員がそんな意思決定をできるカルチャー・組織へと変えたいと思っています。
その第1弾として、ノバセルで扱っているデータを一箇所に集約し、全てのデータを正しく扱えるようなプラットフォームを作る戦略ビジョンを描き、着手しているところです。これは単にUIを変えるというわけではなく、根本から仕組みを変えないければ難しい事柄です。この改善が成功することで、クライアントに見せているテレビCMの効果も、もっと様々な軸や、より確度の高い軸などで見せられる土台作りになると考えています。
ラクスルにおける、自身の役割とは
ノバセルのプロダクトチームでエンジニアのリーダーをしつつ、Head of Engineering(HoE)という肩書です。HoE という呼称は日本では馴染みが薄いかもしれませんが、グローバルでは割と一般的な呼称で、日本では例えば事業部CTO と呼ばれているようなポジションです。
具体的にはノバセル事業に対しテクノロジー面でユニークな価値を創出したり、参入障壁を作り出したりするための戦略を描くというのが僕の役割です。まだ入社数ヶ月ですが、今は本当にやりたかったことを実現している手応えがあります。

データプラットフォーム周りに関しては自分自身でオーナーシップを持ってやっていますが、ネクストステップとしてやるべきことは、ノバセルにテクノロジーの観点から価値を付加し、プロダクトチーム全体をより良い組織にすることだと考えています。
どのエンジニアも、テクノロジーだけではなくビジネスそのものに興味を持っていて、ビジネス的視点の解像度が高いのはラクスルのメンバーの特徴。だからこそ少人数でもしっかりとパフォーマンスが出ていると思います。ここでいう技術力とは、何か特定のコードを書けるというよりも、ビジネス的な解像度の高さをそのまま自分たちのプロダクト開発に反映させることができる点。それからビジネスサイドに対し、必要なコト・モノを適切にコミュニケーションできる能力。これらは本やセミナーだけでは学びにくい部分だと思いますし、対外的に見える以上に高いレベルをキープできているのはとても強みだと感じています。
これから実現したい組織づくりと、そのあり方とは
似ているエンジニアが多いのは弱みにもつながるので、もう少しテクノロジーだけに突っ走っているようなメンバーとか、ある程度エッジの効いたメンバーも加わることで全方位をカバーできるのではないでしょうか。理想としては、「個人個人はスペシャリスト、組織としてはジェネラリスト」みたいな組織の作り方がいいなと思っています。今はどちらかというと「ジェネラリストの集まりで、ジェネラリストリスト」。能力が高い人が多いからいいものの、今後もっと組織が成長していくためには、もう少し「スペシャリストの集まりでジェネラルを作る」形の方が強い組織になると思います。
組織のあり方を考えたとき、考えて考えて考え尽くすというのはすごく大事。そうこうしているうちに自分ゴトになるし、逆に言うと自分ゴトにならないといけない。メンバーにはリーダーの、リーダーであれば組織の、組織リーダーであればCxOの視点という感じで、1段階上の視座を持てるよう常に心がけてほしいと言っています。
究極的なことを言えば、本当は全員経営者目線が理想ではあるのですが、一歩間違うと“労働の搾取”に近い発想になってしまいます。捉え方次第ではありますが、やはり常に視座を高く持ち、自分が今直面している問題に対して客観視したり、別角度から見たらどうかというのをちゃんと考えられる人・組織を目指せるといいですね。もちろん、どの角度・高さにいても解像度は高いままをキープしなければいけません。
視座を変えれば意思決定が変わるという例は結構多く、たいてい高い視座の意思決定の方が全体最適になります。「個別最適の集合体」は、必ずしも全体最適にはならないんです。だから全体最適を目指した行動が、自分の視点での個別最適とギャップがあるならば、そこはレポートラインと話して目標を改善するなどの対策を打たなければいけない。
最終的に実現したいのは、例えるならば梁山泊のような組織。メンバーがラクスルで働いているということに対し、今現在で誇りを持てるし、ラクスル卒業後も「あの頃ラクスルにいたんだ」と誇れるような組織です。ラクスルというのはそのための応援を惜しまないぞ、という姿勢も前面に出していきたいです。
ノバセルへのモチベーションの原点
僕は12年にわたり会社を経営し、自分でも様々なサービスを作ってきました。
その間には、サッカーをもっと好きに、そしてうまくなるサービスを作り、「めちゃくちゃいいものができた! これは絶対ハマる人が続出するぞ」と思っているにも関わらず、なかなかそれを届けられない悔しさをたくさん味わっています。そこでWEBマーケティングを独学したり、物理的な商品であれば楽天に出店したり、さらに楽天大学に入って売り方を研究したりとひたすら頑張って、それなりの成果を上げてきたのです。
でも本来は、その時間をプロダクトを良くすることに全部集中し、予算があればマーケティングをどこかに預けたかった。“いいもの”と“それを欲する人たちが繋がる世界”さえあれば、プロダクトが届いた人たちはもっとハッピーになったはずです。もしも当時マーケティングが民主化されていたら、それが実現していたなと歯がゆく思う気持ちもあります。
今のノバセルは、あらゆる人が使いやすいとはまだまだ言えない。だけど、使えば必ず効果が出るサービスです。
最終的には「良いものを作っている人がモノづくりに集中し、それを本当に欲しいと思っている人に適切に届くような世の中」、そんな世界を作るために日々努力しています。

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