今回取り上げるのはリピーター満足度の向上に挑んだDTPスクラムです
DTPとは「Desktop Publishing」の略称で、一般的には書籍や新聞などの紙面をコンピュータ上でデザインしたり編集したいする作業のことを指します。一方、ラクスル社内におけるDTP業務とは、お客さまから入稿していただいたコンテンツデータを、印刷に適したデータ形式に編集する作業のことを指します。
一見するとごく単純な作業のようにも思えますが、実際にメンバーの方々に話を聞いていくうちに、この業務のクオリティやスピードが会社全体の収益を大きく左右していることがだんだん分かってきました……。
インタビュー対象者
エンジニアリングマネージャー(サーバサイドエンジニア) 有澤高介さん
エンジニアリングマネージャー(フロントエンドエンジニア) 姜信徳さん
サーバサイドエンジニア 荒井栞さん
フロントエンドエンジニア 中森慎平さん
プロダクトマネージャー 甲木陽一郎さん
ラクスルのサービスの品質を大きく左右する「DTP業務」
──ラクスル社内における「DTP業務」とは、一体どのようなものなのでしょうか?
荒井さん お客さまがラクスルのサイトで印刷を発注される際には、印刷データをアップロードしていただきます。ラクスル側ではこれを受け取った後、パートナーの印刷会社さんへ印刷を依頼できる形にデータを変換します。具体的には「トンボ」「塗り足し」などを付加したり、印刷・裁断した際に重要な情報が欠落しないかといった点をチェックし、必要があれば調整を行います。これらの変換・チェックを施した印刷データが完成したら、それを印刷会社さんに渡して正式に印刷作業の発注を行います。ラクスルのDTP業務は、この印刷データの変換やチェックの作業を担当しています。
──この作業は、具体的にはどのように行われているのでしょうか。
甲木さん 現時点では、印刷データの変換・チェックを人手で行う「オペレータデータチェック」と、システムで自動的に行う「スピードデータチェック」の2種類の方法があります。前者はもともと以前から行われていた方法で、ラクスルのDTPオペレータがDTPソフトウェアツールを使って人手でデータのチェックを行います。一方、スピードデータチェックは約2年前から始めたやり方で、特定の商材やデータフォーマットの印刷データに限り、システムで自動的にデータチェックを行うというものです。
有澤さん もともと2017年1月に、私を含めて何人かのメンバーでスピードデータチェックの開発プロジェクトを立ち上げました。それまでは人手によるチェックしか行っておらず、場合によってはデータのチェックだけで数日間も要してしまうことがあり、顧客満足度の低下や機会損失につながっていました。そこでこれをシステムで自動的に処理し、わずか数分間でデータチェックを終えられるようにしたところ、リピート顧客の数が爆発的に増えてラクスルの収益も大幅に向上しました。こうしてスピードデータチェックがビジネス全体に与えるインパクトが明らかになったため、会社としても本格的にスクラムを立ち上げて力を入れることになりました。
甲木さん 合わせて、もともとオペレータが人手で行っていたチェック作業にも非効率な面があったため、この業務をより効率化するためのシステム開発も行っています。
──有澤さんと甲木さんは、当時からこれらのシステムの開発に携わっていたのですね。
有澤さん はい。現在はDTPスクラムでサーバサイドエンジニアとして開発を行うとともに、エンジニアマネジャーも務めています。ちなみにラクスルとの関わりは、もともとは2016年3月から業務委託のエンジニアとして開発に参画していて、その年の11月から正式に社員として加わりました。
甲木さん 私は現在、プロダクトマネジャーとしてDTPスクラムの開発計画の策定や進行管理、リリース管理などを担当しています。スクラムの中の役割としては、スクラムマスターに相当します。
──荒井さんは有澤さんと同じく、サーバサイドの開発を担当されているのですね。
荒井さん はい。先ほど挙がった「オペレータデータチェック」と「スピードデータチェック」双方のサーバサイドの開発を担当しています。サーバサイドの開発は私と有澤さん、そしてもう1人のメンバーを加えた3名の体制で行っています。
印刷データの変換・チェックをその場で自動的に行う「スピードデータチェック」
──一方、姜さんと中森さんはフロントエンドの開発を担当されているのですね。
姜さん はい。エンジニアリングマネジャーとして主にスピードデータチェックのUIをはじめとするフロントエンド系の開発を行っています。ちなみに前職は大手Webサービス企業で、フロントエンドとサーバサイドの両方をまたがったWebサービス開発を担当していました。
中森さん 私も同じくフロントエンド系の開発を担当しています。主にスピードデータチェックの画面の実装を担当しています。
──スピードデータチェックの具体的な利用イメージを簡単に教えていただけますか?
中森さん 印刷の注文画面で、お客さまが印刷データをアップロードすると、その場でデータチェック処理が裏で行われて、30秒から1分間ほど待つと印刷イメージのサムネイルが表示されます。また同時に「余白が少し多いのですよ」「カラーを変換しました」といったコメントもあわせて表示されます。お客さまはブラウザの画面上で、完成物の印刷イメージの表と裏の両方を、まるで本物の紙をめくるようなイメージで確認できます。
姜さん チラシや名刺などはこうして表と裏のイメージを確認できますが、冊子の場合は見せ方が違ってきて、ページをぱらぱらとめくる形で印刷イメージを確認できます。このように商材ごとにUIの見せ方が違ってきますから、それぞれごとに私たちフロントエンドエンジニアが画面の開発を行っています。現在は、より多くの商材でこのスピードデータチェックが使えるよう、対象商材を徐々に増やしていっているところです。
──この裏で実際のデータチェック処理をサーバサイドで行っているわけですね。
有澤さん データのチェック処理そのものは、サードパーティー製のツールを使って行っています。サーバーサイドでは、アップロードされたデータをそのツールに適した形に変換して渡したり、あるいは変換されたデータをサムネイルとして表示できるよう、フロントエンドに渡したりといったやりとりを制御しています。
──こうした印刷データの自動変換・チェックの仕組みは、競合他社も提供しているものなのでしょうか?
甲木さん 同様のサービスを他社が提供している例はありますが、大抵の場合は「aiフォーマットのみ」「PDFの専用フォーマットのみ」といった具合に、あらかじめ定められたデータフォーマットに沿っていることが条件になっています。一方、ラクスルのスピードデータチェックは、基本的にはどのようなフォーマットのものでも受け付けて、なるべく自動変換・チェックできるよう試みます。このように多種多様な形式のデータを受け付けているのがラクスルのスピードデータチェックの大きな特徴で、業界内では明らかに一歩進んだサービスだと自負しています。
ワークライフバランスを良好に保てる労働環境
──既存システムの運用や改善といった仕事もされているのでしょうか。
姜さん はい。細かなUIの改善作業は日々発生しています。毎週木曜日に、スクラム全体で「プレIPM(Iteration Plannning Meeting:イテレーション・プランニング・ミーティング)」というミーティングを行っているのですが、その場でユーザーから寄せられた声や要望などのフィードバックをプロダクトマネジャーから受けます。その内容を基に、スクラムのメンバー全員で対応策を検討して、それがUIで改善できることであればフロントエンドチームで対応します。
甲木さん ラクスルのカスタマーサービス部門にはお客さまの意見が直接寄せられますし、サイトの導線分析なども他の部門で行っています。そうした調査の結果をプレIPMの場でスクラムのメンバーと共有しながら、1、2カ月先まで見据えた開発計画を立てていきます。一方、毎週金曜日には通常のIPMも開催していて、その週のスプリントの振り返りを30分、次週のスプリントの計画立案を30分ほどかけて行っています。
荒井さん そのほかには、朝会を毎日行っています。ラクスルはフレックス制度を導入していて、コアタイムが「11時から16時」と定められています。そこで、毎朝11時からメンバー全員が集まって朝会を行って、スクラム内の情報や課題をメンバー全員で共有する場を設けています。
──では毎朝11時までには皆さん出社されているんですね。退勤はだいたい何時ぐらいなのでしょうか?
中森さん 19時から20時ぐらいになると、大抵は皆既に帰路についていますね。そんなに遅くまで残業することはありませんし、仕事量に波があることもさほどないですね。ワークライフバランスは良好に保てていると思います。
有澤さん 私は育児の都合上、毎日17時に帰らせてもらっているのですが、会社が家庭の事情も考慮してくれるのでとても助かっています。ときにはオフィスに子どもを連れて来なくてはいけないこともあるのですが、皆快く受け入れてくれています。
荒井さん そういえばコロナが始まる前は、エンジニア陣4人で京都合宿を行いましたね。
有澤さん そうそう。合宿というのは初めての試みだったんですけど、京都オフィスのカスタマーサービスのメンバーやDTPオペレータのメンバーと一緒に飲んで、仕事の話で盛り上がりましたね。

──エンジニア同士でも、ビジネスの話で盛り上がることがあるんですね。
姜さん そうですね。社内で働いているエンジニア一人ひとりが、ちゃんと会社の事業全体の目標やビジョンを共有できているのはラクスルならではの特徴かもしれません。また一人ひとりが自分自身のこだわりをしっかり持ちつつも、同時に互いの意見を尊重し合ってチームで働ける文化が根付いている点も素晴らしいと思います。この2つを両立させるのは、普通はかなり難しいですからね。
今後成長が期待されるネット印刷の業界をリードしていく
──そのほかにもラクスルならではの特徴的なカルチャーはありますか?
有澤さん 「無駄なこと」を嫌う文化がありますね。エンジニアがたくさんいる職場では、どうしても余計な仕事がいろいろと出てくるものですが、ラクスルではそういうものがほとんどなくて、ロジカルにまっすぐ目標に向かっていくのを良しとする風土があります。このあたりのカルチャーは、社長をはじめ経営層の考え方が強く反映されているのだと思いますが、個人的にはとても共感できますね。
甲木さん また、現場に適切に権限移譲してくれる点も助かっていますね。日本企業によくみられる「ハンコリレー」のようなものがなく、現場一人ひとりの裁量で物事を進めることができます。
──ちなみに「こういう人がラクスルで働くのに向いている」というタイプはありますか?
有澤さん 「B2Cに疲れた人」かな(笑)。
姜さん B2Bビジネスならではの面白さを感じられる人には、ラクスルは向いていると思います。と言いつつ、私も前職は典型的なB2C企業で、ラクスルに転職したばかりのころは「B2Bは堅いなあ」と感じていたんですが(笑)。でも実際に中でいろんな人たちと話したり、会社のビジョンに触れるうちに、いつの間にかB2Bの魅力に目覚めていました。
有澤さん 先ほども話した通り、私は当初は業務委託の立場でラクスルの開発に従事していたのですが、当時から既にベンチャー界隈では有望企業として注目を集めていたのにもかかわらず、ソースコードのレベルはお世辞にも高いとは言えませんでした。でも逆に言えば、このレベルのソースコードでこれだけビジネスが伸びているということは、エンジニアとしてこの会社でできることがたくさんあると感じたんです。それに印刷業界全体の規模感を考えたとき、とてつもなく大きな可能性を感じましたし、「これはコミットする価値が十分にあるな」と直感して転職を決意しました。
甲木さん ヨーロッパでは印刷サービス全体の約30%がEC化されていますが、日本はまだ5%にも満たないと言われています。また印刷業界全体の構造や文化も旧態依然としていて、大手2社を頂点にしたピラミッド構造の中にあらゆるプレイヤーが組み込まれています。こうした状況に対して現在、ラクスルを筆頭にネット印刷企業が風穴を開けようと奮闘しています。日本は海外と比べてネット印刷の普及が遅れている分、今後市場が伸びる余地が大いにあります。「我こそは」と思うエンジニアの方は、ぜひ私たちと一緒にチャンスをつかんでほしいですね。
──ありがとうございました。
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