2020年はベトナム、インドと海外拠点も増えラクスル のテック組織も大きくなりました。世の中のDXの動きが強まり、テクノロジーの力がより重要となっている今、ラクスル を支えるテック組織はどのような世界を目指していくのでしょうか?
CTO泉が考える今後目指すべき姿について、これまでを振り返りながらご紹介します。
取締役CTO
泉 雄介
Yusuke Izumi
1979年生まれ 10歳でアメリカに渡り、ニューイングランド音楽院作曲科卒業後、制作プロダクションに作曲家として就職。その後システム開発会社の起業等を経て、2005年モルガン・スタンレー証券(現モルガン・スタンレーMUFG証券)に入社し、主に債券関連商品の取引システム開発に従事。2012年株式会社ディー・エヌ・エーに入社。ゲームプラットフォーム事業を経て、遺伝子検査サービスの立ち上げに携わり、システム開発の技術リードを務める。 2015年10月、ラクスル入社。2017年10月に取締役・CTOに就任。
中の世界を全て把握し、モノづくりができるプログラミングの面白さ
私は中学1年くらいの時に父親の転勤について渡米し、そのまま中高大学時代をアメリカで過ごしました。大学での専攻は作曲。でもそれ以前からプログラミングに興味があり、小5でBASIC言語を使い始め、プログラムを公開したりゲームを作ったりしていました。子供の時からモノを作るのが好きで、かつ、物事の中の世界を全部自分で知ることができるのが面白かったんです。
大学卒業後は作曲を生業にしていました。会社エントランスで流れている音楽も私が作曲したものです。自分の手を動かすことで、人にインパクトを与えるのが好きなんでしょうね。
作曲の仕事をしているうちに映像に興味が湧いて作品を作りはじめ、Webアニメーション(当時はFlashアニメーション)などに興味を持ち、データベースや開発を独学し始めました。
その後、起業したは良いが当時は金もコネもなく、最初に手がけた仕事は出会い系サイトの制作(笑)。その後、金融システムや金融業務に携わる人のためのシステム開発なんかを手がけました。
プログラミングの中でも、ユーザーインタフェースの設計に面白みを感じます。人が触れるタッチポイントを作るのがすごく好きで、新規事業で開発するなら、UIの開発からやりたいですね。プログラミングって、今存在しないものを技術さえあれば作れる。それってすごく面白いじゃないですか。
“仕組み”を変えることで近道を示した、ラクスルの価値提供
私は純粋にお金儲けが大好きです。こう言ってしまうと守銭奴のように思えるかもしれないけれど、儲けることって会社のメンバーをはじめ、みんなに仕事が行き渡る経済活動の一部なんです。それに21世紀の化け物職業、一番儲かる仕事はエンジニアなんですよ。ビル・ゲイツだって、ザッカーバーグだって、はじめはエンジニア。ソフトウェア業界は、エンジニアが築いた世界です。
あまり普段意識することではないと思いますが、システム開発は一種の錬金術のようなもので、こうやって我々が話している間も、食事をしている間も、会議をしている間もシステムが稼働することによって、キャッシュを生み出してくれる。そんな仕組みをエンジニアが作っているわけですが、これは一見当たり前のように聞こえるけどすごいことです。ラクスルの強みは、「こんなテクノロジーがあれば、もっと良い状態になるのに」ということを具現化していく力。そこに大きな魅力と可能性を感じています。だからこそ、エンジニアはもっとプライドを持っていいと考えています。

そこをさらに掘り下げて「そのシステムになぜ金を払っているのか」を考えた時、お金を払ってでも使いたい便利さがあったりするわけですが、お金を払ってでも使いたい理由は多くの場合単純な言葉で表せます。例えば「高いものが安く手に入る」「遅かったものが早くなる」「難しいものが簡単になる」とか。従来はメール添付やUSBメモリを物理的に渡すしかなかったやり取りが不要になり、そんな回り道しなくても済む近道を提供している―というラクスルの価値提供は、個人的に大好きです。
“Digitalization”から“Automation”、“Optimization”を磨き上げ、“Prediction”へと昇華させよう
いま私の持つ最大のテーマは「グローバリゼーション」です。ここにフォーカスする理由はいくつかあるのですが、その理由の一つは、ラクスルで手掛けていることがまだDXの初段階にあってデジタル化がもたらす恩恵の一部分しか享受できていないと感じているからです。
ラクスルにおけるデジタル技術の応用は、段階があり、それぞれが違った形で業界にインパクトをもたらしていると考えています。
まず大きかったのは“Digitalization”。今まで紙でやっていたアナログなことをデジタル化したことで、情報の摩擦がだいぶ減りました。
次に実現しつつあるのが“Automatization”。一件ずつ、電話で確認しなければならなかったことが一瞬で完了できるような自動化です。
次に目指すのは、“Optimization”、すなわち効率化のステップをさらに引き上げ、応用範囲を広げることです。
私は、印刷事業で作り上げたギャンギング(異なる顧客、デザインの印刷物をまとめて一つの版にすること)の仕組みが、物流分野でもできるんじゃないかと考えています。例えばいろんな荷主を混載しようとすると特別のライセンスが必要になるので難しいですが、大量注文が一荷主から入ってくるオーダーに関してはアレンジ方法が豊富なはず。色々な輸送網をどうアレンジするか、どれが一番効率的にできるかを自動計算し、実行へ落とし込む。

そして最終的には“Prediction”(予測)……というところまで発展させ、必要になる需要に対して供給を先回りして確保し、極限まで市場効率性を高める。そこまでが今見える終着点なのかと思います。
ラクスルはWEBテクノロジーを中心にソフトウェアを開発していますが、オートメーションの先へもう少し課題を発展させたときに、解決すべき問題に対して、より広い技術を適用することで、これまで出せなかったビジネスインパクトを創り出すことができると思っています。人が判断していたことをコンピューターに決めさせたり、それをすることで膨大なデータを処理することが出来るようになったり。こういった領域にも技術を適用することが次の競合優位性を築く一つの重要なイニシアチブだと感じます。
エンジニア全員が視野を広く、経済活動を理解しなければ発展はありえない
当然、課題領域を“Prediction”にまで発展させるのは非常に難しいことでもあります。技術的な困難さもありますが、むしろ課題領域を切り出すこと自体、簡単ではありません。事業を深く理解した上で、事業の発展に必要な解くべき問題を切り出し、プロジェクトをデザインし、エンジニアを束ね、試行錯誤を繰り返して問題を解決し、リターンを作る。シンプルそうに聞こえますが、なかなか難易度の高い話だと思います。
これまでラクスルは“Digitalization”、”Automation”を非常にうまくデザインしてきたと思う一方、今後の成長は「今までアナログだったけど、デジタルに置き換えられます」という領域以外にも目を向け始めないといけないと思っています。現実世界で起きていることをモデルに直すとどうなるかというところから、次のステップ、さらにその次のステップへと進むでしょう。そこに必要な技術がどんどん広がっていかないと、価値提供が薄れるし、他の競合にも追い抜かれる可能性があります。
そのためには手段ありきというよりも、課題設定がほぼ全てだと思っています。課題があってこその技術ですし、解決すべき課題がなかったら適用する必要もない。

だからこそ、エンジニアには常に視野を広く、技術以外の勉強をしてほしいと考えています。最近では、資本主義の終焉を予言するようなメッセージもよく目にしますが、良かれ悪かれ価値の効率的な取引を可能にする「お金」や「経済合理性」の基礎的な概念はずっとつきまとっていて、それから逃れることもできないです。
今、数名のエンジニアに対してコーポレートファイナンスや財務諸表の勉強にも取り組んでもらっていますが、これをもう少し大きな規模でやってもいいかもしれない。テストコードを書くことによってどれだけ楽になるか、後々事故が起きないか、後で変更するときにこれがバリアーになってくれるかなどを総合的に考えたとき、今やるべきかやらないべきかという判断は経済合理性がある中ですべきでしょう。
大なり小なり、すべての意思決定には何らかの経済合理性が根源になっているはずなので、エンジニアにもROI(投資利益率)に興味を持ち、感覚を養ってほしい。できれば事業にもどんどん踏み込んでほしいし、日本のエンジニアにはもっともっと稼いでほしいです。
エンジニアこそ、フットワークは軽くあれ
同じ時間をかけて開発するなら、報われないものは作りたくありません。小さな失敗や、失敗前提でプロセスを組むことは構いません。と言うのも、そうすることで作り込み過ぎないから。とりあえず試作品を作って、「こっちは違う」といった感じに探索していけばいい。そういう失敗は否定しません。最初から根を詰めて不確定なものに頑張りすぎないことが大事で、全部作りこんで後でダメになるよりも、その手前で簡単に検証できることを積み重ねて小さな失敗を繰り返す方が、効率よく回せて開発も報われるものになります。
つまり、開発現場は”練習”だと思えばいいんです。世の中に出してからが本番だから、一人で完結しないことが大切。メンバーにもよく「30点くらいでとりあえず上げてほしい」と話すのですが、それは3割の完成度であっても、オプションをいろいろ並べてみたりでも、とりあえず色んな人にぶつけてみて正しい方向を作っていくほうが早いし上手くいくということ。
人に見せたらフィードバックがあれこれ返ってくるのは当たり前。「何か指摘されたら失敗だ」というふうに感じちゃうのはおかしいんです。自分なんて大したことないって思っていたほうがいいですよ。みんな、うぬぼれ過ぎなんです(笑)
自分一人で完璧にできると勘違いしている人は少なくありませんが、私から見ればそれはうぬぼれです。社会はチームでやるのが当たり前で、自宅でひとりで完結するものなんてほとんどありません。どうやって守っていくか、いかに拡張していくかを集団で考え、成功させているチームこそ強いと思っています。ジュニアとシニアの差を一番感じるのは、その辺りの行動量です。

ジュニアエンジニアは、なにか調べる必要があるとすぐにネットで調べ、自分の世界だけで解決しようとする。一方、シニアエンジニアはすぐに他のメンバーに尋ねたり、検証してもらうなど、フットワークが軽い。人との接点の数が、ジュニアとシニアで大違いなんです。悩んでいる時間は前進していない。悩むくらいだったら、人に聞いて何が足りないのかを知ったほうが早い。人に話に行こうと思っていろいろ情報を整理し始めると、自己解決につながることも往々にしてあると思います。
ベトナム/インド進出はスタート地点。ラクスルを世界基準のテクノロジーエコシステムに入れたい
ベトナムとインドへの進出は、私にとってラクスルの目指すべき目標への第一歩です。まず実現したいのは、ラクスルをグローバルなテクノロジーエコシステム(全ての階層、セグメントを網羅するアーキテクチャ)に入れることです。認めたくない心情もありますが、現実としてはソフトウェアエンジニアの領域では日本は多くの場合フォローワーであってイノベーターではありません。我々なりに独自の思考をもって事業を確立させ、それにふさわしい体制が必要だと考えています。
ラクスルの「仕組みを変えれば、世界はもっと良くなる」というビジョンを世界に広げていくことは、素晴らしいチャレンジです。私は、それを日本人である自分自身が達成したいというスピリットとして持っています。ベトナムは人口の半分が27歳以下という若い国。技術職も最長でも12~13年で、そこまでヒストリーがあるわけではありません。しかし、若いということに対する可能性は大きいと思います。またインドはすでに30年くらいの歴史があり、エンジニア組織の作り方や考え方にも学ぶことがたくさんあります。KPIの設定、数値化分析の仕方やメッセージングの方法なども進んでいますし、進出したことでそれを取り込めるのはメリットでしょう。
“人”に恵まれるラクスルの環境は、エンジニアにとっても強み
ラクスルのメンバーは、この会社を選ぶ時点でセンスがいいと思います(笑)。どのエンジニアも真面目で地頭が良く、ロジカルシンキングに強い。それでいて優しく、話しやすいのは最大の特長だと思います。
印刷業界は、外からはわかりにくい部分が非常に複雑で、私自身プロセスを読み解くのに半年くらいかかりました。なんと言っても、技術力向上のための勉強は一人ではなかなか出来ませんし、効率が悪い。ラクスルのペアプログラミングのような文化は、絶対最速で効率がいいと思います。
だから、ラクスルの福利厚生で一番大きいのはメンターシップという側面ではないでしょうか。技術的にも、キャリア的にもメンターシップが整っている体制は、参考図書を与えるよりもずっと良いと思っています。教科書やアプリ、システムなんかはツールでしかない。教育、教わるって最終的には人にはかなわない。学ぼうとしない姿勢や閉ざした感情を変えるのは、人にしか出来ません。新卒もシニアも関係なく、気軽に他者に尋ねられるラクスルのカルチャーは堅持したいですね。

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